サマリー
新型コロナウイルス感染拡大が世界的なサプライチェーンの脆弱性を浮き彫りにする中、有事における供給能力の強化を目的とした「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)が2022 年5月に立ち上げられた。関税の引き下げを伴わないという敷居の低さや即効性が特徴だが、実効性の低さも指摘されている。また、米国主導の対中包囲網というもう一つの大きな特徴もあり、各国の「脱中国」の進展が日本経済に大きな影響を与える可能性がある。
IPEFで議論の対象になるとみられる重要品目について分析したところ、IPEF参加国の脱中国が進むことで生じる外需を日本が取り込めば、半導体などの輸出増加が見込める。他方、日中関係の悪化などによって中国向け輸出が減少するほか、中国からの輸入の減少によって重要物資の代替調達の必要が生じる可能性もある。これらの影響と国内経済への波及効果を合計すると、IPEFへの参加による日本経済への直接的な影響は限定的にとどまる可能性が示唆された。とはいえ、IPEFの真価は有事に発揮される。コロナ禍で発生した機会損失の規模に鑑みれば、経済的なコストを負う可能性が低い一方で安定供給を確保できる点には数字以上の恩恵があるだろう。
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