サマリー
6月上旬に行われたG7首脳会議では米国の輸入関税をはじめとする保護主義姿勢を巡る米国とEU・カナダとの亀裂が鮮明となり、ついにはトランプ大統領が首脳宣言を反故にするという異常な事態に発展した。トランプ政策のナンセンスはいつものことながら、より懸念されるのは、EU、カナダが早々に報復関税発動の方針を発表したことで、国際社会が米国のナンセンスな政策を押しとどめる抑止力を失ったことであろう。特に米国に匹敵する巨大経済圏であるEUが米国の身勝手にまともに向き合い、国際協調路線を放棄したかにみえることは、今後の世界経済への大きな懸念材料である。国際社会が無策である以上、貿易摩擦の深刻化を回避する上で期待されるのは、米国の企業、国民の声ということになろうか。実際、追加関税の対象から日用品、テレビ等の耐久財が除かれたのは、米国内での反発を受けた結果であると報道されている。しかし、こうしたドメスティックな抑止力が、品目間調整を超えてトランプ大統領の保護主義姿勢を転換させるには、自動車の輸入関税の大幅上乗せが、米国民の実質購買力を大きく毀損するなど、大きな経済的ダメージが生じるプロセスを必要とするかもしれない。グローバルガバナンスの不在のコストが世界経済に重くのしかかりつつあるようにみえる。
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