日本経済見通し:2018年6月

Ⅰ.米中関税合戦は延長戦入り、日本経済・企業収益はどうなる? Ⅱ.消費増税の影響を巡る過少推計レトリックと論点整理 Ⅲ.経済見通しを改訂:2018年度+1.0%、2019年度+0.8%

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2018年06月20日

  • 小林 俊介
  • 経済調査部 研究員 廣野 洋太

サマリー

◆米中の通商政策を巡る紛争は、「延長戦」に突入した。とりわけ米国トランプ大統領は追加関税への意向を表明しており、今後の展開には不確実性が残る。しかし現時点で決定された政策は大別して①米国による鉄鋼・アルミニウム関税引き上げ、②米国による中国からの輸入品500億ドル相当に対する関税引き上げ、③中国による同額の報復関税、④中国による自動車等を含めた関税の引き下げ、の四つである。

◆本稿では、各決定が日本企業の収益および日本経済に与える影響を網羅的に試算した。総じて言えば①②③のマイナス効果を④のプラス効果が概ね相殺する見通しだ。むしろ日本企業にとっての最大の正念場は、今後控えている自動車の通商交渉となろう。仮にトランプ大統領が主張している通りに関税の引き上げが行われた場合、2兆円を超える文字通り桁違いの関税コストの増加が見込まれる。

◆また本稿では、2019年10月に控えた消費増税の影響について論点を整理するとともに試算を行っている。消費増税は「代替効果」と「所得効果」の二つの経路を通じて消費および実体経済に影響をもたらすが、前回の増税時には後者の議論が不十分であった。また、「所得効果」の推計に当たっては「限界消費性向」ではなく「平均消費性向」を採用することが妥当であり、次回の消費増税に伴って、3.2兆円程度の消費減少効果が恒久的にもたらされると試算される。しかし巷間「限界消費性向」を誤用した試算が散見されており、今回も消費増税の影響が過少推計される可能性がある。

◆2018年1-3月期GDP二次速報の発表を受けて、経済見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2018年度が前年度比+1.0%(前回:同+1.0%)、2019年度が同+0.8%(同:同+0.8%)である。日本経済は、2017年度に揃っていた好材料が剥落する格好で、一旦踊り場局面に入るとみている。中期的に見ても、資本ストック循環が日米中を中心に成熟化していることに加え、2019年10月に予定されている消費増税の影響などから、日本経済は2019年度にかけて減速を続ける見通しだ。

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