日本初公表「未活用労働指標」の見方

政府・日銀および市場関係者が注目すべき新たな「ものさし」へ

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2018年05月15日

  • 山口 茜
  • 金融調査部 主任研究員 長内 智

サマリー

◆総務省は、日本の労働市場が多様化・複雑化するなかで、未活用労働の実態を把握すべく、2018年5月11日に発表した労働力調査の詳細集計(2018年1-3月期)から、未活用労働に関する複数の指標の公表を開始した。本稿では、新たに公表された未活用労働指標について概観するとともに、その指標の見方および今後の注目点について検討する。

◆労働供給の「伸びしろ」を測る:就業者の労働供給の「伸びしろ」を示す「追加就労希望就業者」や、非労働力人口の中で最も労働力人口に近いと言える「潜在労働力人口」を考慮した未活用労働指標は、現在日本が抱える労働市場の課題を分析する上で非常に有効だ。また今後、政府には、雇用に関する緊急経済対策や「人づくり革命」などを柱とする成長戦略を策定する際、その政策効果を最大限に高めるためにも、未活用労働指標を詳細に分析することが求められよう。

◆労働市場の質を捉える:日本の労働市場が多様化・複雑化するなか、既存の失業率には表れてこなかった労働市場の質的変化を分析する上で、未活用労働指標は役に立つ。例えば、内閣府が公表している「月例経済報告」の雇用情勢の基調判断において、今後は未活用労働指標も活用される可能性があるだろう。

◆金融政策を占う新たな羅針盤:未活用労働指標で測られる労働市場のタイトさは、賃金上昇の先行きを占う上での重要な判断材料となることから、今後のインフレ見通しにも影響を及ぼす。このような観点から、未活用労働指標は、物価の安定を目指す中央銀行の金融政策運営に対しても有益なインプリケーションを持つこととなる。欧米では、未活用労働指標は金融政策運営の先行きを考える際の重要な材料となっている。今後は、日本の未活用労指標も、データや分析が蓄積されるにつれ、日本銀行の金融政策運営を占う上での新たな羅針盤になると期待される。将来的に、日本の市場関係者の未活用労働指標に対する注目度が高まることも考えられよう。

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