サマリー
◆総務省は、日本の労働市場が多様化・複雑化するなかで、未活用労働の実態を把握すべく、2018年5月11日に発表した労働力調査の詳細集計(2018年1-3月期)から、未活用労働に関する複数の指標の公表を開始した。本稿では、新たに公表された未活用労働指標について概観するとともに、その指標の見方および今後の注目点について検討する。
◆労働供給の「伸びしろ」を測る:就業者の労働供給の「伸びしろ」を示す「追加就労希望就業者」や、非労働力人口の中で最も労働力人口に近いと言える「潜在労働力人口」を考慮した未活用労働指標は、現在日本が抱える労働市場の課題を分析する上で非常に有効だ。また今後、政府には、雇用に関する緊急経済対策や「人づくり革命」などを柱とする成長戦略を策定する際、その政策効果を最大限に高めるためにも、未活用労働指標を詳細に分析することが求められよう。
◆労働市場の質を捉える:日本の労働市場が多様化・複雑化するなか、既存の失業率には表れてこなかった労働市場の質的変化を分析する上で、未活用労働指標は役に立つ。例えば、内閣府が公表している「月例経済報告」の雇用情勢の基調判断において、今後は未活用労働指標も活用される可能性があるだろう。
◆金融政策を占う新たな羅針盤:未活用労働指標で測られる労働市場のタイトさは、賃金上昇の先行きを占う上での重要な判断材料となることから、今後のインフレ見通しにも影響を及ぼす。このような観点から、未活用労働指標は、物価の安定を目指す中央銀行の金融政策運営に対しても有益なインプリケーションを持つこととなる。欧米では、未活用労働指標は金融政策運営の先行きを考える際の重要な材料となっている。今後は、日本の未活用労指標も、データや分析が蓄積されるにつれ、日本銀行の金融政策運営を占う上での新たな羅針盤になると期待される。将来的に、日本の市場関係者の未活用労働指標に対する注目度が高まることも考えられよう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年8月機械受注
非製造業(船電除く)を中心に弱含み、政府は基調判断を下方修正
2025年10月16日
-
経済指標の要点(9/13~10/15発表統計)
2025年10月16日
-
25年度最低賃金改定の総括と今後の焦点
新政権では欧州型目標の導入など最低賃金政策の再考を
2025年10月14日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日