サマリー
◆米国は、2018年3月23日より、鉄鋼の輸入に25%の関税を賦課する輸入制限を開始した。本稿では、輸入制限の対象となって米国向けに輸出できなくなった鉄鋼は、輸出国・地域の従来の輸出先シェアに応じて、米国以外の国・地域に輸出されようとするという仮定をおいて、輸入制限の日本の鉄鋼輸出への影響を分析した。現実の影響は価格と数量の両面に及ぶが、分析の単純化のため、日本の主な鉄鋼輸出先における鉄鋼輸入に対する需要量は変化しないという仮定を置いて、輸出数量に与える影響のみを分析した。
◆日本から米国に輸出されている鉄鋼は特殊なものなので、関税が賦課されてもあまり減らないという見方が報じられることが多いが、本稿では、日本から米国に輸出されている鉄鋼も一律に減少して、米国以外に輸出されようとすると仮定した。その結果、日本は、米国向け鉄鋼輸出が減少しても、米国以外への鉄鋼輸出を増加させることが難しいとの分析結果となった。
◆米国の鉄鋼輸入の過半が適用除外となったことから、その分米国以外に振り向けられようとする鉄鋼輸出は減少していると考えられる。しかし、適用除外となった国・地域から日本の主な鉄鋼輸出先に輸出されている鉄鋼は比較的少なく、一部の国・地域が適用除外となったことが日本が鉄鋼輸出を米国以外に振り向ける余地を拡大する効果は、限定的であるとの分析結果となった。
◆他方、日本に近いアジアの国・地域であるベトナム、韓国、台湾、タイは、鉄鋼輸出の米国向け集中度が高く、米国向け輸出を日本の主な鉄鋼輸出先にシフトしようとする傾向が強いことから、日本が鉄鋼輸出を米国以外に振り向けることを難しくしている主な国・地域になっているとの分析結果となった。
◆中国もアジアの国で、日本の鉄鋼輸出の最大の競合相手である。しかし、中国の鉄鋼輸出は、米国の輸入制限の開始前から米国向け集中度が低く、アジア新興国へのシフトが進んでおり、米国の輸入制限が中国と日本の鉄鋼輸出の競合に与える影響は、限定的であるという分析結果となった。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
2025年5月全国消費者物価
米価格の上昇が他の食料品や外食など関連品目の価格にも波及
2025年06月20日
-
2025年5月貿易統計
輸出数量は横ばい圏を維持も、円高効果等で輸出額は8カ月ぶりに減少
2025年06月18日
-
2025年4月機械受注
民需(船電除く)は減少し、コンセンサス通りの結果だった
2025年06月18日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日