歓迎すべき「トランプ相場」の変調

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2017年04月21日

  • 児玉 卓

サマリー

FRBによれば、昨年11月の米国大統領選挙から同年末にかけて、米ドルの名目実効レートは5%弱上昇し、後、4月中旬までに4%程度下落した。3月半ばに2.6%台だった米国10年国債利回りは2.2%前後に低下している。司法や議会の壁に直面するトランプ政策が迷走し、実効的な景気刺激策に対する期待が後退している結果であろうが、これ自体は必ずしも悪いことではない。第一に、経済合理性に真っ向から反する政策が繰り出される可能性は低下している。米国が中国の為替操作国認定を見送ったことなどは、その一例と捉えられよう。第二に、米国はそもそも景気刺激策を必要とする状況にはない。同国の景気が万全ということではないが、循環的には完全雇用近傍のマチュアな状況にあり、追加的な刺激策が賃金上昇の加速などを惹起する可能性がある。これとも関係するが、第三に期待先行のドル高や金利上昇が収束することで、米国景気拡大の延命の可能性が高まる。もっとも、いいことばかりではない。市場のメッセージはやや込み入っており、政権の政策執行能力への疑念が高まっている割には、米国株価の反落の程度は明らかに軽微である。恐らく注意すべきは、株価調整の本格化よりも、分配の不平等が一層深刻化し、トランプ政権の求心力が消失する可能性があることであろう。それが同政権のレームダック化を招くだけであれば良いが、内政の失策を高圧的な外交政策で相殺するべく、地政学的リスクをあちらこちらで撒き散らせば、上記の「加点」はすべで霧散する。

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