サマリー
◆本稿では、家計所得が上がらない理由を所得分配の面から探る。マクロ的に家計所得が上がらない理由を探るには、生産、所得分配、需要の3つの経済循環を見る必要があるが、所得分配、特に市場を通じて分配される当初所得(政府による再分配前所得)から検討されることは少ない。
◆所得分配の面から家計所得が上がらない理由は、賃金・俸給の減少のみならず、家計の財産所得や自営業者への分配も減少しているからである。財産所得は企業の手許に多く残り内部留保として積み上がり、海外の直接投資へ向かっている。つまり、内部留保は収益率の高い海外資本へ投資されている。
◆家計所得を上げるには、国内の物的・人的資本の収益率を高める制度設計が必要である。例えば、参入規制の緩和、労働時間の上限規制、職務重視の雇用慣行、異分野との交流の促進、教育や職業訓練の強化等が挙げられ、特に若年世代の所得格差の是正が人的資本の質の向上による持続的成長のカギを握ると考える。
◆引退した高齢世代への分配がマクロ的に増えると、将来世代による成長余力を奪いかねず、低成長の悪循環から脱却できない恐れがある。人々が安易に給付に依存する誘因を減らし、むしろ自らの能力を高める誘因を与えていく自立支援的な所得再分配政策への転換が求められる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
2025年1-3月期GDP(2次速報)
実質GDP成長率は前期比年率▲0.2%に改善するも民間在庫が主因
2025年06月09日
-
2025年4月消費統計
総じて見れば前月から概ね横ばい、先行きも横ばい圏で推移しよう
2025年06月06日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日