原油安の波及経路とインパクト

原油安は日本経済にとって大きなメリット、景気拡大の追い風に

RSS

2015年03月16日

  • ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 橋本 政彦

サマリー

◆足下で原油価格は反転の兆しが見られているものの、2014年夏までの水準に比べるとなおも低い水準で推移しており、原油価格の低下が経済を押し上げる効果に対する期待感は大きい。そこで、本稿では既往の原油安が経済に及ぼす経路を確認した上で、日本経済にどの程度の影響を与えるかを検証する。


◆原油価格の下落は消費者物価を押し下げ、家計の購買力を向上させる。国際原油市況の下落が消費者物価に転嫁されるには数ヶ月のタイムラグを伴うことから、エネルギー価格水準は2015年春頃までは低下が続くのがほぼ確実な情勢である。消費税率引き上げによる効果が剥落することもあり、実質賃金は2015年4-6月期にはプラス圏に転じる公算が大きい。実質賃金の増加は個人消費を押し上げる要因となることに加えて、消費者マインドの改善にもつながるとみられ、個人消費は当面高い伸びが期待できるだろう。


◆企業部門については、輸入物価の下落が収益を押し上げる要因となる。過去の関係に照らすと、輸入物価の下落から半年程度のタイムラグを置いて企業の変動費率は低下する傾向にあり、既往の原油価格下落が本格的に企業収益を押し上げるのは2015年半ば頃以降となるだろう。原油価格が50%下落した場合の企業収益(営業余剰)に与える影響を試算すると、全産業ベースでは+4.6%押し上げられるとの結果になった。製造業では+9.8%、非製造業では+3.9%収益が押し上げられ、個別業種ごとに見ても、大半の業種で収益が改善する。


◆原油安が日本経済に与える影響を、マクロ経済モデルを用いて試算すると、2014年6月時点で105ドル/bblだった原油価格が下落したことによって、2014~2016年度の実質GDPの水準はそれぞれ2014年度:+0.20%、2015年度:+0.50%、2016年度:+0.41%押し上げられる。2014年初から半ばにかけて停滞した日本経済には、足下で自律的回復に向けた動きが見られているが、原油安がさらなる追い風となって、その回復はより力強さを増すことになるだろう。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。