人手不足は解消するか?
当面、人手不足が成長のボトルネックとなる可能性は低い
2014年09月26日
サマリー
◆有効求人倍率が1倍を上回る水準で推移していることにも表れているように、企業では人材確保が困難となり、機会損失の発生や人件費の増加など、人手不足による悪影響が問題となりつつある。本稿では、今回の景気拡大局面(2012年12月~)の動向を中心に、雇用を取り巻く環境を確認し、労働需給の先行きを展望する。また、その上で労働供給不足が経済成長のボトルネックとなる可能性について検討する。
◆足下での就業者数の増加は景気拡大に沿ったものであるが、景気拡大ペースに比べて就業者の増加ペースが速いことが今回の景気拡大局面における特徴である。最大の要因は、今回の景気拡大が個人消費に牽引されてきたということ。労働集約的な小売業やサービス業などの労働需要が高まることで、非製造業の就業者数が大幅に増加してきた。
◆労働需要が高まるのと同時に、女性を中心に労働力率が上昇し、労働力人口が増加に転じたことも今回の景気拡大局面における特徴である。労働力率が上昇したのは、労働需給がひっ迫する中で、賃金を始めとする就労条件の改善が進んだためとみられる。
◆先行きについては、景気拡大が続くことで就業者数の増加基調が続く可能性が高い。ただし、今後は製造業中心の景気拡大が見込まれることから、就業者数の増加速度はこれまでと比べると幾分緩やかなものになろう。一方、労働供給については、人口減少のトレンドが下押し要因となり続ける見込みであるが、賃金上昇を背景に労働力率の上昇が続くことで、労働力人口は概ね横ばい圏で推移するとみられる。失業率は低下傾向が続くとみられるものの、その速度はごく緩やかなものに留まり、構造失業率を上回る水準で推移する見込みである。労働力不足が経済成長の決定的なボトルネックとはならないだろう。
◆しかし、こうした展望は労働需給のひっ迫が賃金上昇や雇用者の待遇改善につながり、それに伴い新たに就労を希望する者が増加する(=労働力率が上昇する)という前提に基づいたものである。マクロモデルを用いた試算によれば、上記のメカニズムがうまく働かなかった場合、実質GDPは2015年度に3.4兆円、2016年度に7.2兆円程度下押しされる可能性がある。
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