サマリー
◆2013年の貿易収支は11.5兆円の赤字となり、比較可能な中で過去最大の赤字幅を記録した。本レポートは、その要因を分析するレポートの第3弾である。また、本レポートでは、円安が日本の輸出入に与えた影響を分析すると同時に、輸出低迷の要因、さらに輸出の先行きについても分析を行う。
◆2012年末以降為替レートは円安方向で推移しているものの、輸出の伸び率は当初期待されたものと比べれば緩慢な状態が続いている。こうした結果をもとに、「日本では構造的に円安効果が出にくくなった」と主張する意見も多く聞かれる。しかし、本当に円安効果は減衰しているのであろうか。
◆円安で輸出が伸びるためには、日本の輸出物価が競合他国と比べて相対的に低下し、価格競争力が高まる必要がある。足下で契約通貨ベースの輸出物価はそれほど引き下げられていないものの、ドルベースで見れば輸出物価は低下しており、価格競争力は改善していると考えて良いだろう。日本の輸出が先進国内で占めるシェアを見ても、円安局面入り以降下げ止まりの兆候が見られる。円安効果は既に生じているとみられる。
◆輸出が伸び悩んでいる直接の原因は先進国景気が停滞しており、輸入が伸びていないことである。しかし、景気拡大に伴って先進国の輸入も徐々に回復基調を強めていくとみられることから、日本からの輸出に関しても、今後は増加局面入りすることが示唆される。
◆Jカーブ効果で貿易収支赤字幅が縮小するためには、2年程度の年月を要する。円安局面入りから1年程度は貿易収支赤字幅の拡大が続く時期であり、2013年は円安によって3兆円程度貿易収支赤字幅が押し上げられている模様である。しかし、輸出数量の増加が期待されることから、今後、貿易収支赤字幅は縮小に向かう見込みである。
◆ただし、Jカーブ効果の発現が貿易収支赤字幅を縮小する効果には限界があり、円安がさらに進行したとしても、11兆円の貿易収支赤字を埋め合わせることはほぼ不可能だ。さらなる貿易収支赤字幅の縮小には、様々な構造改革や生産性向上に向けた動きが欠かせないものとなろう。
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