サマリー
◆欧州経済の先行きに大きな影響を与え得る2つの動きが進展している。1つ目は、米国による追加関税、およびEUの報復による貿易摩擦の激化である。EUは3月12日に米国による鉄鋼・アルミニウム関税が発効したことを受け、同規模での報復を検討することを即座に発表した。EUは関税回避に向け米国と協議を続ける意向を示しているが、欧米間の関係性に改善の兆しは見られず、4月2日に発表が予定される相互関税の対象からEUが除外される見込みは小さい。
◆2つ目の動きは、国防費の増加による財政支出の拡大であり、EUはフォン・デア・ライエン委員長が提案した8,000億ユーロ規模の「欧州再軍備計画」に合意した。EU予算による1,500億ユーロの融資が予定されているほか、国防費をEUの財政規律の適用外とすることで、4年間で6,500億ユーロの確保を目指すとされ、これは欧州経済の上振れ要因になると考えられる。
◆また、ドイツでは国防費増額に向け、債務ブレーキ緩和の動きが急展開した。下院で可決された憲法改正案には、GDP比1%を上回る国防費を債務ブレーキの対象外とすることに加え、5,000億ユーロのインフラ投資のための特別基金の創設が盛り込まれた。これまで財政規律を重視してきたドイツの財政政策は大きく転換することになり、停滞が続いてきたドイツ経済の先行きに対する期待感は高まっている。
◆英国も国防費の増加計画を発表したが、増加分は国際援助を削減することで捻出されるという。国防費を増額するという方針はEUやドイツと同じだが、財政赤字を拡大させず、他の歳出をカットすることで予算を確保することから、国防費の拡大による経済の押し上げ効果は限定的とみられる。
◆むしろ、財政政策に関して、英国では規模縮小に向けた議論が活発化している。労働党政権は、2024年10月の政権交代後最初の秋季予算案で、増税、歳出拡大による大規模な財政拡張を決定したが、想定以上に財政の悪化が進んだことで、3月26日の公表が予定される春季予算案には歳出の削減が盛り込まれる可能性が高い。
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