サマリー
◆ロシアのウクライナ侵攻開始以来、EUはロシアからのエネルギー輸入の削減を急ぎ、代替の調達先探しに奔走している。しかし、輸送にパイプラインなどのインフラが必要となる天然ガスの新たな調達先確保は順調とは言い難く、エネルギー価格の高騰を受け、日本を含めアジアでもスポット市場でのガス争奪戦の様相を見せている。
◆EUの中でもガス危機の影響が最も懸念されているのは、(侵攻開始前に)ロシアからのガス輸入に大きく依存していたドイツである。ドイツは9月1日までに貯蔵量を容量の75%にするという政府目標は達成しつつある。しかし、秋以降に暖房が使われ始めれば、次の目標達成(10月までに85%)はかなり厳しいといわれている。政府はガス配給制導入に向けて準備を進める一方で、シャワー時間を短縮するといった省エネを促し、冬までにガス施設の貯蔵量を引き上げようと必死の努力を続けている。
◆英国はロシア産ガスの依存度が低く、必要とされるガスの半分は領海である北海(北海油田からガスも石油も採掘できる)から得ている。ただし、英国は再生可能エネルギーへの移行を急ぎ、化石燃料であるガスの貯蔵施設は必要ないとばかりに、大規模な貯蔵施設を閉鎖してしまっており、これが致命傷となっている。
◆今回のエネルギー危機は、コロナ危機による供給制限や、ロシアのウクライナ侵攻だけが原因ではない。それよりも急速な脱炭素への移行の反動や、化石燃料に対する投資の急減やアジアでのガス需要の拡大といった構造的な問題が原因とみられる。脱炭素という目標にとっては好ましくないものの、現実には世界経済の成長には依然として化石燃料の使用が必要なことはいうまでもない。欧州は現実をみつめ、エネルギーが安価な時代に戻ることはできないことを認識し、かつての安価なエネルギーに基づく便利な生活と決別し、相応のコストを支払うしかなくなっていることを認めるしかない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
-
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
-
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
-
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
-
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日
日本経済見通し:2024年2月
2025年度にかけて1%前後のプラス成長と2%インフレを見込む
2024年02月22日
ビットコイン現物ETF、日本で組成可能か?
米SEC承認を受けて、日本で導入することの法制度上の是非を考察
2024年02月13日
第220回日本経済予測(改訂版)
賃上げの持続力と金融政策正常化の行方①自然利子率の引き上げ、②投資と実質賃金の好循環、を検証
2024年03月11日
日本経済見通し:2024年3月
24年の春闘賃上げ率5%超えを受け、日銀はマイナス金利政策を解除
2024年03月22日
2024年の日本経済見通し
緩やかな景気回復と金融政策の転換を見込むも海外経済リスクに注意
2023年12月21日