気候変動対策の落とし穴、グリーンフレーションの脅威

欧州のグリーン経済移行促進が現代版スタグフレーションを招く

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2021年10月19日

サマリー

◆欧州では、気候変動対策に端を発する物価上昇、いわゆる「グリーンフレーション」の危険性に対し、警戒が高まっている。ここ数年はデフレへの懸念に焦点が集まっており、グリーン経済への急速な移行によるインフレに気を留める人は少なく、むしろ歓迎される傾向にあった。しかし、コロナ危機によるサプライチェーンの混乱と同時期に、グリーン経済へ急速に移行させるための製品への需要増が重なったことが、ここに来て仇となっている。

◆欧州では気候変動対策による物価上昇が既に一般市民の生活に大きな影響をもたらしている。その中でも英国は特に大きな打撃を受けている。英国のエネルギーセクターでは天然ガス価格が年初から1.5倍以上に上昇、発電コストも急上昇し、8月から小売向けのエネルギー業者10社が破綻する混乱が起きている。エネルギー価格急騰の背景には、石炭・石油への依存を減らそうとする英国政府の方針が影響している。

◆グリーン経済への移行は数年にわたって平準化されるため、グリーンフレーションは永続的に続くわけではない。ただし、エネルギー転換には時間がかかるという現実を顧みずいたずらに移行を急ぐと、意図しない副作用が出ることは自明である。その影響は時間とともに弱まるはずだが、欧米における物価上昇ペースの予想外の加速によって、金融市場はそのリスクを懸念し始めている。特に欧州における急速なグリーン経済への移行とサプライチェーンの混乱は、現代版のスタグフレーションへの懸念を招いている。

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