サマリー
◆2021年9月26日に行われたドイツ連邦議会選挙(総選挙)は事前の予想通り、明確な勝者のいない接戦となった。翌27日早朝の暫定公式結果によると、中道左派の社会民主党(SPD)が25.7%を獲得し、第一党の座を手にした。一方、2013年からSPDと大連立を組むメルケル首相所属のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は24.1%と前回から大きく得票率を落とし、第二党に転落した。実質的に次期首相を選ぶ意味合いが強かった今回の選挙であるが、得票率が3分の1を超える政党がないというドイツにとっては前代未聞の事態となった。
◆今後の焦点は、かつてない数の政党組み合わせが考えられる連立協議に移る。ただしSPD、CDU/CSUは16年のメルケル政権のうち、12年間大連立を組んだため、双方連立の可能性を否定している。これまでの安定した二党連立体制に終止符が打たれ、ドイツ史上初となる三党連立政権に移ることはほぼ確実と見られている。第三党の緑の党および第四党のFDPの連立入りの可能性が高く、これら政党が中道左派(SPD)あるいは中道右派(CDU/CSU)のどちらと連立を組むかが注目されている。SPDのショルツ候補はCDU/CSUのラシェット候補に比べ各段に国民からの人気があるため、主導権争いという点では、SPDに分があることは確かである。
◆16年間、EU最強の指導者として幾多のEUサミットに臨んだメルケル首相は政界を引退しようとしており、EUにとっては一時代の終わりを意味する。とはいえ連立協議は長引くとみられ、メルケル首相は次期政権が決まるまで暫定政権を続けるため、すぐにEUに劇的な変化が起きるとの見方は少ない。連立協議は長期化すれば、2021年12月でコール首相の歴代最長在任期間を抜くこととなる。ただ後任が誰になろうと、気候変動やコロナ危機と課題は山積しており、(ポスト・メルケル首相は)財政赤字や遅れが指摘されているデジタル化の促進など、現状維持路線を脱し、明確なビジョンを示してドイツを導いていく必要に迫られている。
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