サマリー
◆米英における物価上昇ペースの加速によって、金融市場は経済過熱のリスクを懸念し始めている。ただし米国では、連邦準備制度(Fed)を含め政策立案者の大半は依然として、インフレ率急上昇は制限措置の解除に関連した一時的な傾向であり、70年代に見られたようなインフレスパイラルではないと主張している。原材料価格の一部は急激に上昇しているが、最終財には上向きのコスト圧力はかかっておらず、全般的なインフレの脅威はないと結論付けている。ただし多くの金融市場関係者が「現在のインフレ率急上昇は一時的なものである」というFedの判断に無条件に従っているのが実情である。
◆7月22日のECB政策理事会では、新たなフォワードガイダンスが発表された。同ガイダンスでは、インフレ率が、「(見通しの期間の)終了より相当前の段階で2%に達し」、「残りの期間も持続的にこれを維持し、基調的なインフレ率が中期的に2%で安定する形で十分に推移する」と判断した場合にのみ利上げする方向性が示されている。この新たなガイダンスの文言によって、従前より利上げのハードルは高くなっている。一方、ECB理事の間では、物価高を受けてコロナ危機対応として導入された金融刺激策、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の規模を削減すべきという考えと、インフレ率の上昇は一時的なものであり、金融政策は依然として緩和的なままにすべきとの意見が対立しつつある。
◆欧州委員会は7月14日、2050年までに排出量ネットゼロを達成する世界初の経済圏となるため、経済の全セクターと貿易を対象とした気候変動対策計画案(グリーンディール法案)を発表した。その中で最も注目されたのが、ハイブリッドを含むガソリンやディーゼルといった内部燃料型エンジン車両(ICE)の販売を2035年までに事実上禁止する発表をしたことであろう。世界の自動車メーカーは、ICEの終焉に向け、数十億ドルの投資を続けているため、新たな排出システムコストを直接消費者に転嫁すれば、価格を引き上げざるを得ず、さらなる自動車価格の高騰を招き、既に高まりつつあるインフレ率を引き上げる可能性がある。
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