サマリー
◆コロナ危機を背景に、特別目的買収会社(SPAC)の人気が、米国で過熱している。SPACは上場を通じ投資家から資金を調達し、有望な非公開企業を見つけ、買収を通じて上場させる。SPACが最初に注目されたのは1980年代であり、最近までは資金調達における最終手段としてとらえられていた。しかしコロナ危機により、金融関係者も在宅勤務となり、伝統的な株式のロードショーはほとんど実現されなくなったことにより、投資ブームが到来したといわれている。
◆SPACは通常資金調達から24カ月以内に、合併対象企業を特定し合併を完了させなければならず、それができなければスポンサーが清算のリスクを負う。このため株主価値を犠牲にしてでも、案件をクローズするという強いインセンティブがSPAC設立者には働くことになる。また、上場時にはSPACの受益権(ユニット)が1単位10ドルで割り当てられるケースが多い。さらにSPACの取引が開始されてからしばらくすると、受益権が株式とワラントに分離されるというSPAC独特の構造がある。このワラントは、早い時点で出資した投資家に対するインセンティブとして機能する。SPACが特定された企業と合併した際に、ワラントは比較的割安な価格で新企業の株式に転換される。これによって、投機筋は、当初の出資金が全て償還されたとしても、(合併が成功すれば)さらに合併案件から収益を上げることが可能となる。
◆一部のSPACは素晴らしいリターンを生んではいるが、これは例外であり主流とは言い難い。昨今設立されたSPACの買収案件のクローズ時期となることが多い18-24カ月後には、狂乱ともいうべきSPACブームの結末が明らかになっているだろう。新型コロナ収束にともない、金利がさらに上昇し始めれば、SPACバブルが崩壊する可能性を指摘する向きも多い。SPACの上場が乱立したことで、投機筋にとってアービトラージの機会も消滅しつつあり、SPACの株価が下がり始めれば、熱気は急速に冷めることになる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 利下げ終了後の注目点
関税リスクは後退、財政悪化・金利上昇が新たなリスクに
2025年09月24日
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日