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土壇場で協議継続となった英国・EU交渉

合意なき離脱になればワクチン輸入はどうなる?

2020年12月16日

ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト(LDN駐在) 菅野 泰夫

サマリー

◆12月13日、ジョンソン首相とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、電話協議で、包括的通商交渉を含む、英国とEUとの将来的な関係性を巡る協定交渉をさらに継続することで合意した。ただし、新たな交渉期限は示しておらず、年内に協議が収束しない可能性も十分にあり得る。膠着状態にある交渉における最大の争点は、公平な競争条件である。EU側はこれまでの立場を軟化させ、一方的に(公平な競争条件が守られているか)EUが評価して罰則を与えるのではなく、独立した調停パネルの設置などを通じて、制裁措置の調整を行う妥協案(「フリーダム条項」)を提案しているという。

◆協定交渉におけるさらなる争点は、英海域内でのEU船籍の漁業権である。英海域(沿岸から12-200海里の深海、6-12海里の沿岸区域)へのEU船籍のアクセスおよびその操業量が問題となっている。英国は移行措置として12-200海里に関しEU船籍に3年間の現状維持アクセス、そして3年後にはアクセス自体を年次交渉の対象にすることを提案している。一方、合意なき離脱となれば、英国は自国海域のコントロール権は譲れないと、あくまでもEEZでのEU漁船の運行を認めない方針を貫いている。そのため、ジョンソン首相は、4隻の英国海軍哨戒艦を派遣し、英国海域にEU漁船が侵入した場合の停止命令、検査や拿捕などの任務にあたる指示をすでに発令している。これは1970年代にアイスランドと武力衝突を伴う紛争に発展した「タラ戦争」を彷彿させる事態に発展する可能性も指摘されている。

◆仮に協定合意となっても、欧州議会での批准が間に合わない場合、一時的にテクニカルな合意なき離脱も予想される。ただし現在のところ、様々な猶予策により、たとえ合意なき離脱となっても、全般的な食品不足や燃料(石油)供給難など、懸念されていた最悪のシナリオは避けられるとの見立てが多い。英国のシャルマ・ビジネス担当相は、合意なき離脱となってもサプライチェーンに大きな影響を及ぼすことはなく、英国政府の試算では関税賦課による潜在的な物価上昇の影響は2%に満たないため、パニック買いを控えるよう呼びかけている。さらに、ベルギーから輸入される、ファイザー/ビオンテックの新型コロナウイルスワクチンは、合意なき離脱となっても供給に支障はないとの自信を示している。

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