サマリー
◆12月13日、ジョンソン首相とフォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、電話協議で、包括的通商交渉を含む、英国とEUとの将来的な関係性を巡る協定交渉をさらに継続することで合意した。ただし、新たな交渉期限は示しておらず、年内に協議が収束しない可能性も十分にあり得る。膠着状態にある交渉における最大の争点は、公平な競争条件である。EU側はこれまでの立場を軟化させ、一方的に(公平な競争条件が守られているか)EUが評価して罰則を与えるのではなく、独立した調停パネルの設置などを通じて、制裁措置の調整を行う妥協案(「フリーダム条項」)を提案しているという。
◆協定交渉におけるさらなる争点は、英海域内でのEU船籍の漁業権である。英海域(沿岸から12-200海里の深海、6-12海里の沿岸区域)へのEU船籍のアクセスおよびその操業量が問題となっている。英国は移行措置として12-200海里に関しEU船籍に3年間の現状維持アクセス、そして3年後にはアクセス自体を年次交渉の対象にすることを提案している。一方、合意なき離脱となれば、英国は自国海域のコントロール権は譲れないと、あくまでもEEZでのEU漁船の運行を認めない方針を貫いている。そのため、ジョンソン首相は、4隻の英国海軍哨戒艦を派遣し、英国海域にEU漁船が侵入した場合の停止命令、検査や拿捕などの任務にあたる指示をすでに発令している。これは1970年代にアイスランドと武力衝突を伴う紛争に発展した「タラ戦争」を彷彿させる事態に発展する可能性も指摘されている。
◆仮に協定合意となっても、欧州議会での批准が間に合わない場合、一時的にテクニカルな合意なき離脱も予想される。ただし現在のところ、様々な猶予策により、たとえ合意なき離脱となっても、全般的な食品不足や燃料(石油)供給難など、懸念されていた最悪のシナリオは避けられるとの見立てが多い。英国のシャルマ・ビジネス担当相は、合意なき離脱となってもサプライチェーンに大きな影響を及ぼすことはなく、英国政府の試算では関税賦課による潜在的な物価上昇の影響は2%に満たないため、パニック買いを控えるよう呼びかけている。さらに、ベルギーから輸入される、ファイザー/ビオンテックの新型コロナウイルスワクチンは、合意なき離脱となっても供給に支障はないとの自信を示している。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日