サマリー
◆2016年は英国のEU離脱(Brexit)決定が象徴するように政治の不透明感が高まった。しかしながら、欧州経済は内需が牽引する堅調な成長が続き、2016年の経済成長率は英国+2.0%、ユーロ圏+1.6%と推測される。英中銀(BOE)、欧州中銀(ECB)とも緩和政策を継続しているものの、ECBは12月にデフレ懸念の後退を理由として2017年4月以降の資産買取額を月800億ユーロから600億ユーロに減額すると発表した。
◆2017年の英国の経済成長率は+1.2%へ減速すると予想する。Brexit実現に向けた交渉開始が見込まれる中、ポンド安による購買力低下が徐々に顕在化しよう。また、Brexit決定を受けて在英の金融機関や事業会社は国外移転の検討に入っていたが、その一部が実行段階に入ると見込まれる。メイ政権も景気減速を予想し、インフラ投資やR&D投資などへの予算増を盛り込んだ2017年度予算を発表したが、景気減速を押しとどめるには力不足となろう。消費者物価上昇率は2016年の+0.6%から2017年は+2.3%へ加速し、BOEのインフレ・ターゲットの中心値である+2.0%を上回ると予想する。
◆2017年のユーロ圏の経済成長率は+1.4%と予想する。歴史的な低金利の下で消費者と企業の景況感が改善しており、緩やかな雇用改善が消費と投資の回復を後押ししよう。消費者物価上昇率は2016年の+0.2%から2017年は+1.3%へ緩やかに加速すると予想する。原油価格上昇で産油国の需要が持ち直し、またトランプ次期大統領の景気刺激策で米国の需要拡大が期待されることは、ユーロ圏の輸出回復の追い風である。ただし、急速なドル高が多くの新興国の通貨安を招いているように、「トランプ効果」は欧州経済にプラスと一概には言えない。2017年はBrexitがどう実現されるのか、トランプ次期大統領がどのような政策を打ち出すのか、オランダ、フランス、ドイツの国政選挙で反主流派政党がどこまで台頭するかなど不透明要因が多い。さまざまに想定される政治波乱に対して、経済の耐性が試される年になるだろう。
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