欧州ベーシックインカム制度の議論

現実的なヘリコプターマネーの選択肢

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2016年08月09日

サマリー

◆欧州の政策担当者の間では、にわかにベーシックインカム制度の導入が議論され始めている。ベーシックインカム制度とは、最低限の所得保障として政府が定期的に一定額の現金を国民に対して支給する制度であり、給付基準の判断が難しく不公平になりがちな生活保護給付など、複雑な社会保障を整理する効果などが期待されている。かねて、ベーシックインカム制度は国民均一に現金を配るという性質上、現実的なヘリコプターマネー政策の実施手段として注目されていた。


◆スイスでは、ベーシックインカム(Universal Basic Income)の導入の是非を問う国民投票が6月5日に実施された。この国民投票は、一部のラディカルなエコノミストが主張する理論にすぎないといわれていたヘリコプターマネーが、現実のものになるか否か、金融関係者からも注目された。投票実施前の5月4日にはチューリッヒでベーシックインカムに関する国際会議が開催され、バルファキス元ギリシャ財務相やMITのエコノミストなど世界的に著名な学識関係者が参加している。


◆ベーシックインカム制度は、一律支給される現金を求め周辺国から移民の大量流入を招くことが懸念されている。移民問題を抱えたままでのヘリコプターマネー政策の実施は、たとえ国民の就労意欲が高くとも、社会保障費の拡大という問題だけでなく、実質賃金の低下圧力に直面する可能性も指摘されている。この問題が表面化したのは、近年の英国である。英国のEU離脱(Brexit)が選ばれた最も大きな要因として、経済移民の大量流入の問題に伴う英国白人労働者階級の賃金低下が挙げられている。

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