サマリー
◆6月23日の英国の国民投票はEU離脱支持51.9%、EU残留支持48.1%の結果となり、市場の予想を裏切って「EU離脱(BREXIT)」が選択された。これを受けて24日の金融市場は大荒れとなり、ポンドとユーロが急落する一方、急激な円高が進行して、世界的に株価が大幅下落した。安全資産としてドイツ国債が買われた一方、ドイツと南欧諸国の国債利回りのスプレッドは拡大した。予想外の結果となったこと以上に、「離脱」の意思は表明されたものの、英国のEU離脱に向けたプロセスが非常に不透明であることが投資家の不安をかき立てている。
◆今後の英国の対応でまず注目されるのは、6月24日に辞任を表明したキャメロン首相の後継者選びである。EU離脱に向けたかじ取りを任される新首相が決まらなければ、どのようなタイムスケジュールでEU離脱を目指すのか、EU離脱交渉に際してどのような方針を取るのかが決まらない。交渉相手となるEUは、視界不良の期間をできるだけ短くしようと英国に速やかなEU離脱の通告をするように求めているが、EU離脱の通告は早くて数カ月後、場合によってはずっとなされない可能性すら考えられる。
◆EU諸国はEU第2位の経済規模を有し、さらに国際金融センターであるシティを擁する英国が離脱することの経済的なダメージを懸念している。ただし、英国がEUという関税同盟の外に出て、金融サービス業の単一パスポート制度の適用外になる事態は、開始時期すらまだ明確でないEUとの離脱交渉でそのハードルの高さが決まるため、実際の影響の見極めは長期戦となろう。当面の懸念は、英国のEU離脱派の勝利が他国のEU懐疑派を勢いづかせることに向けられている。6月26日のスペインのやり直し総選挙では、EU懐疑派のポデモスの得票が伸びず、与党国民党が12月の総選挙と比較して議席数を伸ばした。BREXITの衝撃が、土壇場で「変化」ではなく「継続」を選択させたと見受けられる。とはいえ、国民党は過半数の議席獲得には至らず、政権樹立にこぎつけられるか課題は残る。今後、イタリア、オランダ、フランス、ドイツでも注目度の高い政治イベントが目白押しで、目が離せない。
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