サマリー
◆ユーロ圏の中央銀行であるECBがマイナス金利導入を決めた2014年6月は、ECBの金融緩和が新たな局面に入った時期として認識されている。それまでの緩和策はユーロ圏の銀行への流動性供給に主眼を置いていたが、なかなか進まない景気回復とインフレ期待の一段の低下を背景に、ECBは銀行から民間部門への貸出増を後押しする政策に舵を切った。銀行がECBに積み立てた余剰資金に対するマイナス金利の適用、民間企業向け貸出の実績に応じて低利の資金を銀行に供給するTLTROの導入、また銀行が保有する資産担保証券(ABS)などの買取プログラムの導入などが決定された。なお、2015年1月には資産買取の対象が国債にも拡大された。
◆一連の緩和策からマイナス金利の効果のみを取り出すことは難しいが、「非伝統的な緩和策」は長短金利の低下をもたらし、それが貸出金利の低下にも貢献したと評価されている。なお、ユーロ圏では債務危機以降、国ごとの信用力の違いが貸出金利に反映され、財政懸念国と分類されたスペインなどの貸出金利が下げ渋ったことが問題となっていた。ECBが2012年夏に国債の最後の買い手になると宣言したことで国債利回りが低下に転じ、さらに非伝統的な緩和策も加わって、貸出金利の格差は縮小傾向にある。また、内外金利差の拡大によりユーロ安効果ももたらされた。ただし、金利低下とユーロ安が、期待されたような投資増加やインフレ率押し上げに貢献したかというと、これまでのところその効果は限定的である。家計向けはともかく、企業向けの貸出はようやく2015年半ばに拡大の兆しが出てきたところであり、インフレ率に関しては原油を筆頭とする商品価格の大幅下落の影響がユーロ安効果を帳消しにしてしまっている。
◆ECBは2015年12月にマイナス金利幅の拡大を決め、さらに次の3月の金融政策理事会で追加利下げの可能性を示唆している。ただ、ユーロ圏でも金利低下の恩恵ではなく、副作用を懸念する声が高まってきている。具体的には、銀行収益の悪化、保険や年金ファンドの運用成績の悪化、将来の年金に対する懸念の浮上、リスクの高い資産への投資に対する警戒感が薄れてしまっていることで市場環境が変わった時に思いがけず大きな損失を被ってしまう可能性などが指摘されている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
-
KDD 2025(AI国際会議)出張報告:複数AIの協働と専門ツール統合が新潮流に
「AIエージェント」「時系列分析」「信頼できるAI」に注目
2025年09月03日
-
消費データブック(2025/9/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年09月02日
-
2025年4-6月期法人企業統計と2次QE予測
トランプ関税等の影響で製造業は減益継続/2次QEはGDPの上方修正へ
2025年09月01日
-
企業価値担保権付き融資の引当等の考え方
将来情報・定性情報を適切に債務者区分・格付に反映
2025年09月01日
-
“タリフマン”トランプ大統領は“ピースメーカー”になれるか ~ ノーベル平和賞が欲しいという野望
2025年09月03日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日