マイナス金利 ユーロ圏の例

ECBの「非伝統的緩和策」でも副作用の議論が活発化

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2016年02月09日

サマリー

◆ユーロ圏の中央銀行であるECBがマイナス金利導入を決めた2014年6月は、ECBの金融緩和が新たな局面に入った時期として認識されている。それまでの緩和策はユーロ圏の銀行への流動性供給に主眼を置いていたが、なかなか進まない景気回復とインフレ期待の一段の低下を背景に、ECBは銀行から民間部門への貸出増を後押しする政策に舵を切った。銀行がECBに積み立てた余剰資金に対するマイナス金利の適用、民間企業向け貸出の実績に応じて低利の資金を銀行に供給するTLTROの導入、また銀行が保有する資産担保証券(ABS)などの買取プログラムの導入などが決定された。なお、2015年1月には資産買取の対象が国債にも拡大された。


◆一連の緩和策からマイナス金利の効果のみを取り出すことは難しいが、「非伝統的な緩和策」は長短金利の低下をもたらし、それが貸出金利の低下にも貢献したと評価されている。なお、ユーロ圏では債務危機以降、国ごとの信用力の違いが貸出金利に反映され、財政懸念国と分類されたスペインなどの貸出金利が下げ渋ったことが問題となっていた。ECBが2012年夏に国債の最後の買い手になると宣言したことで国債利回りが低下に転じ、さらに非伝統的な緩和策も加わって、貸出金利の格差は縮小傾向にある。また、内外金利差の拡大によりユーロ安効果ももたらされた。ただし、金利低下とユーロ安が、期待されたような投資増加やインフレ率押し上げに貢献したかというと、これまでのところその効果は限定的である。家計向けはともかく、企業向けの貸出はようやく2015年半ばに拡大の兆しが出てきたところであり、インフレ率に関しては原油を筆頭とする商品価格の大幅下落の影響がユーロ安効果を帳消しにしてしまっている。


◆ECBは2015年12月にマイナス金利幅の拡大を決め、さらに次の3月の金融政策理事会で追加利下げの可能性を示唆している。ただ、ユーロ圏でも金利低下の恩恵ではなく、副作用を懸念する声が高まってきている。具体的には、銀行収益の悪化、保険や年金ファンドの運用成績の悪化、将来の年金に対する懸念の浮上、リスクの高い資産への投資に対する警戒感が薄れてしまっていることで市場環境が変わった時に思いがけず大きな損失を被ってしまう可能性などが指摘されている。

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