サマリー
◆ユーロ圏の景気回復を牽引してきたドイツの5月の生産、輸出、小売売上高がそろって前月比マイナスとなった。ドイツの景気回復が息切れしてしまった場合、現在のフランスやイタリアにドイツの代わりを務める力はなく、ユーロ圏全体でも景気失速を懸念せざるを得ない。ただ幸いなことに、米国と中国という2大輸出相手国でこのところ景況感改善がみられる。また、ドイツの消費者マインドも6月に好転し、7月に一段と改善することが示唆されている。ドイツ景気の足元の不調は一時的なもので、ユーロ圏経済はECB(欧州中央銀行)が繰り返し言及しているように景気下振れのリスクを抱えつつも、緩やかな景気回復を継続すると予想される。
◆ユーロ圏では低成長を背景に低インフレの長期化が見込まれる。6月の消費者物価上昇率は前年比+0.5%と5月と同水準にとどまった。デフレ回避を目的とした大規模な国債買取や、ユーロ安実現を意図した為替介入などの要請がECBに対して一段と高まっているが、ECBにおいてこれらの意見が多数派となる可能性は低い。ECBは6月に発表したTLTRO(企業向け貸出増を意図した長期オペ)の実施やABS市場の整備を進めつつ、景気と物価動向を注視することになろう。
◆英国では4四半期連続で前期比+0.7%以上の高成長が続いてきたが、5月の鉱工業生産や小売売上高にやはり減速の兆しがみられる。ただし、これは住宅取得奨励策の見直しなどを通じた過熱抑制策が奏功した結果で、スピード調整にとどまると考えられる。失業率が5年半ぶりに6.5%に低下するなど雇用改善が一段と進んでおり、個人消費が主導する景気回復は年後半も継続しよう。6月の消費者物価上昇率は前年比+1.9%とやや加速したが、賃金上昇率は低水準に抑制されており、物価高騰が懸念されるまでにはまだしばらく猶予があると考えられる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2024年12月消費統計
耐久財は強いが非耐久財が弱く、総じて見れば前月から概ね横ばい
2025年02月07日
-
インド2025年度予算案:消費回復が民間投資を促す好循環を生むか
企業投資の誘発効果の大きい耐久財セクターへの波及がポイント
2025年02月06日
-
消費データブック(2025/2/4号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年02月04日
-
「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 会社法の改正に関する報告書
従業員等への株式の無償交付、株式対価M&A、実質株主の把握など
2025年02月04日
-
中小企業の更なるM&A促進には環境整備が急務
2025年02月07日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
-
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
-
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
2025年度税制改正大綱解説
大綱の公表で完結せず、法案の衆議院通過まで議論が続くか
2025年01月06日
2025年の中国経済見通し
注目点は①不動産不況の行方、②トランプ2.0 vs 内需拡大
2024年12月20日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
岐路に立つ日本の人的資本形成
残業制限、転職市場の活発化、デジタル化が迫る教育・訓練の変革
2025年01月09日