サマリー
◆ECB(欧州中央銀行)は6月5日の金融政策理事会で予想通り複数の追加緩和策を発表した。その目的は2つあり、1つはユーロ高でECBの意図に反した金融引き締め効果が出ることを阻止すること、もう1つはECBによる金融緩和を民間部門に伝達する銀行部門の機能再生である。なお、国債買取を通じた量的緩和策(QE)は見送られたが、「まだ手段はある」との言い方で、今後QEを採用する可能性が示唆されている。
◆一連の追加緩和でユーロ圏の翌日物市場金利(Eonia)のレンジが引き下げられ、短期金利が低下している。また、金融緩和政策がより長期間継続されることが示されたため、ユーロ圏各国の長期債にもう一段の低下余地が生まれたとみられる。ユーロ高抑制効果は先んじて5月に出ていたが、輸出促進など景気押し上げ効果は限定的と予想される。一方、企業向け融資が増えるかどうかは、企業の資金需要が回復するか、その前提条件である世界経済の回復が進むかにかかっている。いずれにせよ、融資拡大効果を確認できるのは2014年末以降となろう。追加緩和措置は緩やかな景気回復の後見役にはなるものの、その先導役とはならないだろう。
◆ECBとは対照的に、英中銀(BOE)のカーニー総裁は6月12日の講演で英国の利上げに言及した。英景気は内需主導で年率+3%台の成長がここ1年続いており、経済状況の正常化の一環として利上げが意識されつつあると見受けられる。とはいえインフレ懸念が台頭しているわけではなく、5月の消費者物価は前年比+1.5%に低下した。過熱感が出てきた住宅価格上昇には、融資制限や住宅供給増などで対処すると予想されるため、BOEの利上げ開始のタイミングは賃金動向次第となろう。失業率が着実に低下する一方、1人あたりの就業時間が長期化しており、賃金上昇率は2014年秋頃に伸び率が加速してくるのではないかと予想される。BOEの利上げ開始時期の予想をこれまでの2015年1-3月期から2014年10-12月期に前倒しする。ただ、英国のみならず世界経済の回復ペースは緩慢であるため、今回のBOE利上げは過去の利上げ局面よりもゆっくりと時間をかけて進められると予想する。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 利下げ終了後の注目点
関税リスクは後退、財政悪化・金利上昇が新たなリスクに
2025年09月24日
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日