サマリー
◆近年、英国の年金制度は、少子高齢化に向け賦課方式の継続のために、公的年金をスリム化して社会保障費を軽減する道を模索している。その受け皿として、私的年金を多様化させる方向にあり、これは世界有数の福祉国家であるデンマーク等の北欧諸国とは異なる制度といえる。
◆英国では高齢化が進む一方で、700万人とも推定される退職準備資産を十分に持たない層の存在を受け、退職後の貯蓄強化を目的に2008年年金法(Pensions Act 2008)が導入された。この法律により、2012年10月より一定条件を満たす被用者は職域年金(英国の企業年金)に自動加入することが義務付けられることとなった。職域年金がそもそも存在しない組織に就労している場合には、雇用主を通じて信託ベースの確定拠出型年金スキームである国家雇用貯蓄信託(NEST:National Employment Saving Trust)へ自動加入することができる。
◆2004年の年金法(Pensions Act 2004)の施行以降、確定給付企業年金を解散する企業が相次ぎ、閉鎖年金が急速に増加している。英国の閉鎖年金は、株式投資の比率を低下させると同時に低リスクでかつ株式と同様にインフレ時に資産価値が高まり他の資産と相関が低い商品を模索していたと考えられる。その中でも、特に物価連動国債への投資が顕著であり、2011年末の時点で英国物価連動国債発行残高の40%以上を年金基金が保有している。
◆オズボーン財務相は、12月5日の財政演説にて、年金支給開始年齢を2050年以降は70歳以上に引き上げることを言及するなど、英国では社会保障費改革の手綱を今も緩めることはしていない。運用面、制度面からみても英国の年金基金の動向には、日本の年金改革やその問題点を紐解く糸口があるのかもしれない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 利下げ終了後の注目点
関税リスクは後退、財政悪化・金利上昇が新たなリスクに
2025年09月24日
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日