サマリー
◆2013年10月23日、欧州中央銀行(ECB)は、域内銀行への資産査定 (AQR)およびストレステストを含む包括的審査の詳細を発表した。同審査の目的は、主に銀行セクターの健全性を確認し、必要であれば不良資産の処理を求め、欧州債務危機で失ったステークホルダーから信頼を回復することとしている。同審査は11月から実施し、2014年10月まで1年をかけて完了させるものとしている。ECBによる審査の対象は、ユーロ圏の主要銀行128行(域内銀行資産の85%相当)とされている。
◆銀行同盟の事前準備として、各国間で統一したリスクアセットの基準作りは不可欠といえる。今回の包括的審査の目的のひとつとして、各国間で比較が困難であったリスクベースでの資産審査の標準化が挙げられる。当局検査時に各国間の資産の比較を容易にさせることで銀行監督の一元化に大きく弾みをつけることにある。
◆ただし一抹の不安を覚えるのは、いくらローンポートフォリオの精査を行ったところで、国をまたいだ与信リスク管理は困難を伴うことであろう。特に、経済環境、生産性、企業風土、など大きく違う状況を考慮したうえで、不良債権やデフォルト率など各国間で同じ基準で計測することは、さらなる困難を伴う。ましてや、銀行監督を「統合」することの複雑さが、リスクアセットの複雑さを上回っては本末転倒といえる。
◆今回の包括的審査の基準をもとに「統合」ありきで銀行同盟が進められることは、いつか来た道を再び進むことになるであろう。単一通貨ユーロ統合の失敗の本質は公務員天国と揶揄されたギリシャやその「国民性」が怠惰とも言われるイタリアにあるのではなく、そもそも「統合」ありきの議論が先行したことにあるといえる。複雑すぎるバーゼル規制を簡素化するにはまだまだ課題が山積みであり、ECBおよびEBAには慎重な「統合」へのステップを期待したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 利下げ終了後の注目点
関税リスクは後退、財政悪化・金利上昇が新たなリスクに
2025年09月24日
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日