サマリー
◆欧州全体の失業率は、他のOECD諸国と比較して高水準にあり、08年から09年にかけた金融危機下でその状況はさらに悪化した。失業率を押し上げたのは、財政危機にある周縁国であるが、対GDP比で見た労働市場政策への支出負担割合は、財政が比較的悪化していない欧州中核国も含め全体的に高水準にある。
◆労働市場政策支出負担増の背景には、「失業・無業所得補助・支援」分野の負担増がある。ただし、その内容は金融危機下で採用した労働市場政策の性質によって、欧州中核国と周縁国で異なる。欧州中核国は、雇用者数を削減する代わりに、一人当たりの労働時間を減らすことで失業率の上昇を抑えた。政府は、労働時間削減対象者に対する補助金給付を実施したことから、同分野の財政負担が上昇した。他方、周縁国では大規模な雇用削減が行われた。非正規雇用の拡大と硬直的な労働市場という構造的な問題が背景にある。さらに、国によっては不動産ブームの失速も失業率の悪化に拍車をかけた。その結果、当該国では失業手当給付の負担が増加した。
◆欧州中核国では、10年に入って労働時間がプラスに転じていることから、足元不安視されている景気悪化が軽微に留まり、12 年に向けて景気回復が継続すれば、各国の回復の強さに併せて雇用者数も拡大するだろう。それに伴い、「失業・無業所得補助・支援」に対する財政負担が軽減するだろう。他方、周縁国ではユーロ圏財政危機下の景気の落ち込みで労働市場がさらに悪化しており、同分野への財政負担も高水準となろう。欧州の失業率とそれに伴う労働市場政策への支出動向は、今後、欧州中核国と周縁国でさらに異なったものとなるだろう。
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