英国、銀行と政府の平和協定(Project Merlin)

SME貸出増加とボーナス抑制を条件にレベル・プレイング・フィールドを実現

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2011年07月12日

  • ニューヨークリサーチセンター 主任研究員(NY駐在) 鈴木 利光

サマリー

◆2011年2月9日、英国政府は、「プロジェクト・マーリン(ProjectMerlin)」という、貸出増加、報酬抑制等に関する主要銀行との間の合意事項を公表している。合意に応じた銀行は、英国4大銀行であるBarclays、HSBC、LloydsBankingGroup、TheRoyalBankofScotland、そしてスペインのSantander(貸出増加の合意のみ)である。

◆プロジェクト・マーリンは、銀行側の主導で、金融危機以来傷ついた銀行のイメージ救済を目的とした、政府との平和(休戦)協定という位置づけで協議を開始し、合意に至っている。

◆重要な合意事項は、中小企業(SME)向け貸出の15%増加(前年度比)と、UKに拠点を置くスタッフに対する2010年度分ボーナスの減少(2009年度分比)である。

◆ボーナスの減少は、この合意がなくとも、インベストメント・バンキング部門の収益減少や金融サービス機構(FSA)の新報酬規程により達成されることが見込まれたため、何らインパクトをもたらすものではない。

◆SME貸出は、四半期ベースでは合意された数字に追いついていないが、それはSME側の貸出需要が不足していたためである。また、そもそもSME市場活性化の最大の障害は銀行セクターにおける競争の欠如にあり、貸出可能金額を設定するというアプローチは的外れである。

◆このように、2010年末の協議開始時から英国のメディアを賑わせているプロジェクト・マーリンではあるが、現時点ではネガティブな評価を下さざるを得ない。もっとも、SME市場活性化が実現した暁には、その要因によっては、プロジェクトの評価がポジティブに変わっている可能性がある。

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