サマリー
◆世界は1970年代以降、大きく分けて4回の食料価格高騰を経験した。人口の増加と新興国の経済成長などによって食料需要が増加する中、単収の向上によって供給量を増やしてきたが、干ばつやエネルギー価格の高騰、戦争、サプライチェーンの混乱等によって、そのバランスが大きく崩れる局面があったためである。特に2022年は、これらすべての悪影響が重なったことで、食料の実質価格指数は過去最高値を更新した。
◆米国農務省(USDA)によると、世界(除く中国)における小麦とトウモロコシの2022年度(2022年9月~2023年8月)の期末在庫率は、低水準となる予測である。ロシアによる侵攻で、種まきと収穫が妨害され、主要生産国であるウクライナでの収穫量が減少することが一因と考えられる。国連・トルコ・ウクライナ・ロシア間で締結された「黒海の穀物輸出協定」が履行されない事態となれば、世界の穀物需給はさらに逼迫するだろう。ロシア侵攻に伴うウクライナの人的被害や世界的な化学肥料不足に鑑みると、穀物の供給が安定するまでにしばらく時間がかかる可能性が高い。
◆国際連合食糧農業機関(FAO)が発表している、食料危機に対する各国の耐性を示す「食料調達柔軟性指数(DSFI)」によると、アフリカや南アジア、東南アジアの国々で低い傾向にある。これらの国々に共通する点は、サプライショックが生じた場合、輸入先(品)を変更する選択肢が少ない点にある。今般の食料危機下では、輸入先の変更が難しく、かつ小麦やトウモロコシの代替となるコメ生産が盛んではないアフリカ諸国への打撃が大きかった。しばらくは、これらの国々で物価高騰や政治不安などが懸念され、注意が必要である。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2024年12月日銀短観予想
中国の景気減速で製造業の業況判断DI(最近)が下振れか
2024年12月11日
-
政策保有株式の保有と縮減の状況
銘柄数は縮減傾向も保有額は増加の傾向
2024年12月11日
-
2024年度の自社株買いが大幅増となった背景と株価への影響
損保の政策保有株式売却が一因。自社株買いが株価の下支え効果も
2024年12月10日
-
第223回日本経済予測(改訂版)
日米新政権誕生で不確実性高まる日本経済の行方①地方創生の効果と課題、②「地域」視点の少子化対策、を検証
2024年12月09日
-
インフレによって債務残高対GDP比を低下させ続けることは可能か?
2024年12月11日
よく読まれているリサーチレポート
-
学生の「103万円の壁」撤廃による就業調整解消は実現可能で経済効果も大きい
学生61万人の就業調整解消で個人消費は最大0.3兆円増の可能性
2024年11月11日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算
基礎控除を75万円引上げると約7.3兆円の減税
2024年11月05日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第2版)
「基礎控除引上げ+給与所得控除上限引下げ案」を検証
2024年11月08日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
-
トランプ2.0で激変する米国ESG投資政策
年金制度におけるESG投資の禁止、ESG関連開示制度の撤廃など
2024年11月07日
学生の「103万円の壁」撤廃による就業調整解消は実現可能で経済効果も大きい
学生61万人の就業調整解消で個人消費は最大0.3兆円増の可能性
2024年11月11日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算
基礎控除を75万円引上げると約7.3兆円の減税
2024年11月05日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第2版)
「基礎控除引上げ+給与所得控除上限引下げ案」を検証
2024年11月08日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
トランプ2.0で激変する米国ESG投資政策
年金制度におけるESG投資の禁止、ESG関連開示制度の撤廃など
2024年11月07日