食料危機がもたらす新興国への影響

輸入代替先の選択肢が少ない新興国に注意が必要

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2023年01月20日

サマリー

◆世界は1970年代以降、大きく分けて4回の食料価格高騰を経験した。人口の増加と新興国の経済成長などによって食料需要が増加する中、単収の向上によって供給量を増やしてきたが、干ばつやエネルギー価格の高騰、戦争、サプライチェーンの混乱等によって、そのバランスが大きく崩れる局面があったためである。特に2022年は、これらすべての悪影響が重なったことで、食料の実質価格指数は過去最高値を更新した。

◆米国農務省(USDA)によると、世界(除く中国)における小麦とトウモロコシの2022年度(2022年9月~2023年8月)の期末在庫率は、低水準となる予測である。ロシアによる侵攻で、種まきと収穫が妨害され、主要生産国であるウクライナでの収穫量が減少することが一因と考えられる。国連・トルコ・ウクライナ・ロシア間で締結された「黒海の穀物輸出協定」が履行されない事態となれば、世界の穀物需給はさらに逼迫するだろう。ロシア侵攻に伴うウクライナの人的被害や世界的な化学肥料不足に鑑みると、穀物の供給が安定するまでにしばらく時間がかかる可能性が高い。

◆国際連合食糧農業機関(FAO)が発表している、食料危機に対する各国の耐性を示す「食料調達柔軟性指数(DSFI)」によると、アフリカや南アジア、東南アジアの国々で低い傾向にある。これらの国々に共通する点は、サプライショックが生じた場合、輸入先(品)を変更する選択肢が少ない点にある。今般の食料危機下では、輸入先の変更が難しく、かつ小麦やトウモロコシの代替となるコメ生産が盛んではないアフリカ諸国への打撃が大きかった。しばらくは、これらの国々で物価高騰や政治不安などが懸念され、注意が必要である。

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