サマリー
◆米国連邦準備理事会(FRB)による利上げとドル高を背景に、外部環境の変化に対する新興国の耐性に懸念が生じている。FRBの利上げによる影響は、各国の経常収支赤字の規模、対内投資の種類、直接投資(FDI)を引き付ける産業の有無、自国通貨建て資金の調達可否、外貨準備高の水準、為替制度によって異なる。ヒートマップで確認すると、2022年にIMFに支援要請を行ったチュニジアやスリランカのような、「国際収支危機」が差し迫った国は、他の主要新興国の中で見当たらない。しかし、いくつかの国に注意が必要である。
◆例えば、対外債務残高の規模が以前から大きく、2022年に経常収支赤字が大きく拡大したコロンビアとチリである。両国では、経常収支赤字のファイナンス手段として証券投資が占める割合が比較的高い。さらに、海外投資家による国債の保有比率も高い構造から、資本逃避に見舞われやすい。中南米諸国は、一般政府や非金融機関、金融機関のドル建て債務比率が高く、ドル高による債務返済負担の増加にも注意が必要である。
◆次に、ハンガリーである。右派オルバン首相とEUとの確執を背景に、EU基金や復興基金からの拠出が差し止められる可能性が浮上している。直接投資の規模が大きいことや、ドル高債務比率が低い点は安心材料ではあるが、仮に差し止めが実現すれば、ハンガリーフォリントの急落を誘う可能性がある。ハンガリーの外貨準備高はすでに「安全基準」を下回っているため注意を必要とする。
◆そして最後に、トルコである。トルコは、経常収支赤字の規模が大きい点と、それをファイナンスする手段として銀行借り入れの規模が大きい点がリスクである。金融機関の債務に占めるドル建ての比率は約70%と高く、為替リスクが大きくなる傾向にある。外貨準備高の水準も低く、対外的なリスクに対するバッファーが新興国の中で最も小さい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
学生の「103万円の壁」撤廃による就業調整解消は実現可能で経済効果も大きい
学生61万人の就業調整解消で個人消費は最大0.3兆円増の可能性
2024年11月11日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算
基礎控除を75万円引上げると約7.3兆円の減税
2024年11月05日
-
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第2版)
「基礎控除引上げ+給与所得控除上限引下げ案」を検証
2024年11月08日
-
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
-
トランプ2.0で激変する米国ESG投資政策
年金制度におけるESG投資の禁止、ESG関連開示制度の撤廃など
2024年11月07日
学生の「103万円の壁」撤廃による就業調整解消は実現可能で経済効果も大きい
学生61万人の就業調整解消で個人消費は最大0.3兆円増の可能性
2024年11月11日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算
基礎控除を75万円引上げると約7.3兆円の減税
2024年11月05日
課税最低限「103万円の壁」引上げによる家計と財政への影響試算(第2版)
「基礎控除引上げ+給与所得控除上限引下げ案」を検証
2024年11月08日
石破政権の看板政策「2020年代に最低賃金1500円」は達成可能?
極めて達成困難な目標で、地方経済や中小企業に過重な負担の恐れ
2024年10月17日
トランプ2.0で激変する米国ESG投資政策
年金制度におけるESG投資の禁止、ESG関連開示制度の撤廃など
2024年11月07日