サマリー
◆2021年2月1日未明、ミャンマー国軍は、NLD(国民民主連盟)党首のアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相、ウィン・ミン大統領を含む幹部を拘束した。国軍系テレビは、1年間の「非常事態宣言」の発令、国軍出身のミン・スエ副大統領が大統領代理、立法・行政・司法の全権はミン・アウン・フライン国軍総司令官が掌握すると伝えた。
◆アウン・サン・スー・チー氏は、昨年11月の総選挙での大勝を受けて、2008年憲法の改正などを含め、2期目の政権への意欲を示していた。国軍は、国軍の既得権益を守った上での民主主義は容認できるが、それを崩していくような民主主義は容認できないとのスタンスに立っており、それが揺るがされる恐れがあるとの判断で、今回の行動に至ったと察せられる。
◆軍事クーデターの経済への影響は、短期的にはネガティブだが、やや違った面も見えてくる。すなわち、依然として経済活動の多くが軍との関わりが強いこと、新たに任命された閣僚の多くが、2011年からのテイン・セイン政権当時の人物であることなどを考えると、事態が落ち着けば、海外から投資再開の動きが出ることも否定はできないのである。
◆中国などと国境を接し、また、国境周辺に少数民族問題、そしてロヒンギャ問題を抱えるミャンマーにあっては、国軍の果たす役割は極めて大きい。このため、いずれの政党でも、政権運営にあたっては、その価値を十分に評価した仕組みを取り入れることが政権安定の重要ポイントである。民主化への道を急ぐと、今回のようなことが再発する可能性がある。
◆欧米や日本としては、ミャンマーの孤立化による中国勢力の拡大を防ぐべく国軍の行動を非難しつつも、一方では、経済発展に向けた地道な援助の道を探るという難しい対応が求められることになるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
カシミール問題を巡る印パの内情と経済への影響
インドは米国の介入を快く思わないが、経済にとっては都合が良い
2025年05月23日
-
尹大統領の罷免決定、不動産問題が選挙のカギに
賃借人保護の不動産政策を支持する「共に民主党」の李在明氏が、大統領選挙で一歩リードか
2025年04月24日
-
トランプ関税のアジア新興国への影響と耐性は?
製品によって異なる影響。対外的な耐性は十分もインドネシアに注意
2025年04月16日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日