五輪後のブラジル経済

正常化への道筋

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2016年09月14日

  • 児玉 卓

サマリー

◆近年のブラジル経済の著しい悪化は、ブーム下における資源依存の高まりと左派政権による失政が生んだ複合不況であった。資源価格上昇下で覆い隠されていた「成長と分配のトレードオフ」が顕在化したにもかかわらず、政府がばら撒きを続けたことで、財政悪化が深刻化した。更に市場の評価の厳しさは、為替レートの下落をもたらし、これがインフレ率を加速させ、ばら撒きの効果が霧散した。ルセフ氏の大統領失職は必然と言えるが、同様の構図はアルゼンチンやベネズエラなど、他の南米諸国における左派の台頭と退潮にも当てはまる。


◆ルセフ氏の失職が視野に入るにつれ、株価や為替レートなど、市場が先導役となり、ブラジルの景況感の改善が徐々に進んできている。テメル新政権がまず着手すべきは財政の立て直しであり、さしあたりは景気への新手の逆風とならざるを得ない。しかし、同国経済が正常化するには、ここを出発点とし、市場の信認を獲得し、金融緩和の余地を作り出していくといった地道なポイントを積み重ねていくしかない。ナローパスではありながらも、回復に向けたロジカルな道筋が見えているところに、ルセフ政権下ではあり得なかった現在のブラジルの着実な前進がある。


◆一部に、リオデジャネイロ五輪の後遺症的経済不調を懸念する声があるが、ブラジルには先立つブームがなかった。更に、ブームと反動を経験したかつての韓国やギリシャのような小国でもない。マクロ経済に限って言えば、五輪のインパクトは小さい。

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