サマリー
◆近年のブラジル経済の著しい悪化は、ブーム下における資源依存の高まりと左派政権による失政が生んだ複合不況であった。資源価格上昇下で覆い隠されていた「成長と分配のトレードオフ」が顕在化したにもかかわらず、政府がばら撒きを続けたことで、財政悪化が深刻化した。更に市場の評価の厳しさは、為替レートの下落をもたらし、これがインフレ率を加速させ、ばら撒きの効果が霧散した。ルセフ氏の大統領失職は必然と言えるが、同様の構図はアルゼンチンやベネズエラなど、他の南米諸国における左派の台頭と退潮にも当てはまる。
◆ルセフ氏の失職が視野に入るにつれ、株価や為替レートなど、市場が先導役となり、ブラジルの景況感の改善が徐々に進んできている。テメル新政権がまず着手すべきは財政の立て直しであり、さしあたりは景気への新手の逆風とならざるを得ない。しかし、同国経済が正常化するには、ここを出発点とし、市場の信認を獲得し、金融緩和の余地を作り出していくといった地道なポイントを積み重ねていくしかない。ナローパスではありながらも、回復に向けたロジカルな道筋が見えているところに、ルセフ政権下ではあり得なかった現在のブラジルの着実な前進がある。
◆一部に、リオデジャネイロ五輪の後遺症的経済不調を懸念する声があるが、ブラジルには先立つブームがなかった。更に、ブームと反動を経験したかつての韓国やギリシャのような小国でもない。マクロ経済に限って言えば、五輪のインパクトは小さい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
なぜベトナムは「不平等協定」を結ぶのか
米国・ベトナムの「ディール」を解明する
2025年08月14日
-
米国抜きの連携拡大~CPTPPのEU拡大が意味すること
「反米色」を排除しながら自由貿易の枠組みを強化、アジアに恩恵も
2025年07月23日
-
インド経済は堅調か?2025年度Q2以降の見通し
個人消費とインフラ投資がけん引役。利下げが都市部の消費を刺激へ
2025年07月07日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日