サマリー
◆ASEANの域内統合は制度の微修正を繰り返しながら、一定の成果を上げてきた。また、AECが求める自由化の対象範囲は通常のEPAよりもはるかに広く、他の経済統合よりも高度なものを目指していると評されている。したがって、AEC発足の期限とされる2015年末に統合が完成しなくとも、また2015年末に目に見える大きな変化が無くとも、AECを過小評価すべきではなく、むしろこれまでの取り組みを評価し、今後の取り組みに期待する方が妥当だろう。
◆AECの発足は、ASEAN諸国をサプライチェーンの中に取り込み、活発に生産拠点展開を行っている国々にとってその効果は大きい。特に、ASEAN域内の貿易活性化という効果以上に、メガFTAを締結することによる相乗効果が大きいと期待されている。
◆他方で、ASEAN各国の評価はまちまちである。統合が進むにつれて、産業蓄積の進んだ国が恩恵を受ける一方で、後発国が負け組となるのではないかとの懸念が根底にある。特にベトナムの危機意識は強く、産業育成までのタイムリミットが迫っていると言われることもある。その背景には、ベトナムにおいて、低コストを比較優位として外資を導入、産業を集積し、技術を習得することで裾野産業を形成するというキャッチアップが上手く機能しなかった点がある。同様の懸念は、タイプラスワンと呼ばれる後発国でも将来生じる可能性がある。
◆ASEAN域内における格差懸念に対し、ASEAN連結性マスタープランを採択するなどして、現在の格差が固定化するリスクを阻止する動きがあることは評価に値する。しかし、ASEANは内政不干渉を原則とすることから、EUのような権限を持った中央機関が存在せず、各国における進捗をモニタリングし、評価するという動きが取りにくい。今後は、格差縮小という観点において、内政不干渉に抵触しない範囲で、各国の利害を調整する機能も必要となるかもしれない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
インド経済は堅調か?2025年度Q2以降の見通し
個人消費とインフラ投資がけん引役。利下げが都市部の消費を刺激へ
2025年07月07日
-
李在明氏の「K-イニシアティブ」を解明する
大統領選で一歩リードしている李在明氏は、韓国経済と日韓関係をどう変えるのか
2025年06月02日
-
カシミール問題を巡る印パの内情と経済への影響
インドは米国の介入を快く思わないが、経済にとっては都合が良い
2025年05月23日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日