ASEAN統合が意味することは

日本にとって効果は大きいが、域内諸国の見方はまちまち

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2015年08月19日

サマリー

◆ASEANの域内統合は制度の微修正を繰り返しながら、一定の成果を上げてきた。また、AECが求める自由化の対象範囲は通常のEPAよりもはるかに広く、他の経済統合よりも高度なものを目指していると評されている。したがって、AEC発足の期限とされる2015年末に統合が完成しなくとも、また2015年末に目に見える大きな変化が無くとも、AECを過小評価すべきではなく、むしろこれまでの取り組みを評価し、今後の取り組みに期待する方が妥当だろう。


◆AECの発足は、ASEAN諸国をサプライチェーンの中に取り込み、活発に生産拠点展開を行っている国々にとってその効果は大きい。特に、ASEAN域内の貿易活性化という効果以上に、メガFTAを締結することによる相乗効果が大きいと期待されている。


◆他方で、ASEAN各国の評価はまちまちである。統合が進むにつれて、産業蓄積の進んだ国が恩恵を受ける一方で、後発国が負け組となるのではないかとの懸念が根底にある。特にベトナムの危機意識は強く、産業育成までのタイムリミットが迫っていると言われることもある。その背景には、ベトナムにおいて、低コストを比較優位として外資を導入、産業を集積し、技術を習得することで裾野産業を形成するというキャッチアップが上手く機能しなかった点がある。同様の懸念は、タイプラスワンと呼ばれる後発国でも将来生じる可能性がある。


◆ASEAN域内における格差懸念に対し、ASEAN連結性マスタープランを採択するなどして、現在の格差が固定化するリスクを阻止する動きがあることは評価に値する。しかし、ASEANは内政不干渉を原則とすることから、EUのような権限を持った中央機関が存在せず、各国における進捗をモニタリングし、評価するという動きが取りにくい。今後は、格差縮小という観点において、内政不干渉に抵触しない範囲で、各国の利害を調整する機能も必要となるかもしれない。

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