サマリー
◆インドネシアの1-3月期のGDP成長率は2009年7-9月期以降で最も低い水準となった。大きな原因は、輸出が未加工鉱石の輸出禁止令の反動で大きく減速したことである。今後は6%程度の成長に回帰すると予想される。民間消費は2013年に燃料価格および政策金利の大幅引き上げや失業率の悪化など逆風が吹いたものの堅調であったことから、今後も安定して成長のドライバーとなり続ける可能性が高い。一方で、投資は力強さを欠く展開が続くと考えられる。政策金利の高止まりによって資金調達コストがかさんでいることが大きな理由である。輸出は世界経済の回復や未加工鉱石の輸出禁止令の影響が薄まると見込まれるため、ある程度の改善傾向が続く可能性が高いものの、その程度はあまり大きなものではないと思われる。主要輸出品目である資源がインドネシア政府による輸出制限令に加え、低成長に移行した中国からの需要鈍化の影響を受けるとみられることが理由である。
◆タイ経済は政治の混乱を大きく受けて低迷している。政治混乱の影響の例としては、①コメ融資担保制度による農家への支払い停止、②政府主導のインフラプロジェクトの停止、③投資委員会(BOI)による審査停止、④訪タイ外国人観光客数の減少、などが挙げられる。この一方で状況が改善される兆しも見える。5月1日からBOIによる審査が再開したほか、5月22日の軍事クーデター後、軍事政権はコメ融資担保制度上での未払い分を支払う方針であり、また政府主導のインフラプロジェクトの一部を実施に移す方針である。ただし、クーデターに反発するタクシン派のデモ隊が抗議活動を活発化させれば、再び政治が混乱に陥り、経済の低迷がさらに長期化する可能性がある。
◆マレーシア経済は輸出を牽引役として大きく加速した。今後も輸出は主要輸出国・地域の景気改善を受け、引き続きマレーシア経済の牽引役になると期待される。一方、政府の消費および投資は引き続き低調となる見込みである。マレーシア政府は政務債務を抑制するため2015年の財政赤字を対GDP比で3%以内、そして2020年には財政均衡を達成する目標を掲げていることもあり、今後しばらく経済の牽引役としては期待できない。しかし、財政健全化はマレーシア経済にとって中長期的にプラスになろう。民間投資は輸出回復の影響で製造業を中心とした設備投資に回復が期待できる一方で、建設投資はマレーシア政府が打ち出した不動産投機抑制策によって減速は避けられないと思われる。民間消費はインフレ率の上昇という逆風が吹くものの、安定した雇用環境が続き、好調な輸出セクターでは雇用者所得の増加ペースが加速すると見込まれるため堅調に推移すると予想される。また2015年4月1日から導入される消費税の影響で消費は大きく減速しない見込みである。所得税減税などが実施されることがその理由である。
◆フィリピンは台風ヨランダからの復興が遅れたことを受けて経済は減速する結果となった。また台風が農作物や魚介類、そしてサプライチェーンに被害を与えた影響でインフレ率はやや高まりつつある。中銀はインフレ率の上昇や不動産バブルの醸成に警戒感をにじませており、3月と5月に開催された金融政策決定会合では預金準備率は1%ずつ引き上げられた。ただし、政策金利の引き上げについては、その後発表された1-3月期の実質GDP成長率が大きく減速したため、利上げ圧力はやや後退したとみられる。
◆ベトナムの景気は底堅いが、企業の資金調達難が今後の成長の重石となっている。銀行の自己資本比率は規制ラインを大きく超えていることから、2012年頃から始まった不動産価格の減速によって、担保となる不動産の価値が大きく毀損したことが銀行貸出に影響した可能性がある。政府が推し進める住宅市場のテコ入れ策が奏功して不動産市場が回復に向かえば、担保価値の高まりを受けて銀行は貸し出しを大きく拡大させると期待される。また西沙諸島を巡る対立を受けて5月半ばに発生した反中デモによってベトナム経済の下押し圧力は高まったと思われる。具体的な経路としては①サプライチェーンの寸断、②外資系企業による投資マインドの悪化、③輸入審査の厳格化など中国政府によるベトナム経済への締め付け、が挙げられよう。
◆2014年と2015年の成長率はインドネシアが+5.6%と+5.9%、タイは+0.9%と+5.3%、マレーシアは+5.4%と+4.7%、フィリピンが+6.6%と+7.1%、ベトナムは+5.4%と+5.6%と予想する。5ヵ国全体で見ると、2014年は+4.7%と2013年の+5.2%から減速するが、2015年には+5.7%まで再加速する見込みである。
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