サマリー
◆アジアにおいて日本からNIEsへ、さらにマレーシアやタイなどのASEAN先行国、そして中国へと引き継がれてきた「高度成長の連鎖」と同様の展開が、メコン地域で起こり始めているといわれる。「タイ・プラス・ワン」という言葉は、まさに成長の糧がタイから周辺国に拡散するプロセスの表現に他ならない。
◆このような展開の恩恵をラオスも受ける。同国は、水力発電開発、鉱物資源の開発と輸出という成長の牽引役を有する。これに製造業のキャッチアップが加わることで、成長率の加速が見込まれる。そしてタイにおいて労働集約的工程が資本集約的工程に置き換わり、メコン地域全体としての成長が確保されることが期待されている。
◆ただし、ラオスにおける成長加速は、短期疾走型に終わってしまう可能性がある。現状、製造業拠点としての同国の最大の魅力は安価な労働力である。だからこそ、タイにおける一部製造工程の受け皿としての存在感を示すことができる。一方、同国は人口650万人程度の小国である。労働集約財の製造拠点としての競争力を長く維持することは極めて困難とみざるを得ない。
◆従って同国は、期間限定の高度成長の果実を無駄にすることなく、次のステップ、資本・知識集約的な製造業基盤の構築、さらには農業の生産性向上などに邁進する必要がある。何より優先されるべきは、教育改革であろう。日本を含む海外からの支援についても、人材育成を一つの柱とすることが望まれる。
◆このようなラオスのケースは、「タイ・プラス・ワン」というストーリーの妥当性を疑問視する根拠とはならない。ただし、タイ経済の成熟化がもたらす成長拡散の潜在的な地理的範囲が、メコン地域を超えて広くアジアに及ぶ可能性があることに注目したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
李在明氏の「K-イニシアティブ」を解明する
大統領選で一歩リードしている李在明氏は、韓国経済と日韓関係をどう変えるのか
2025年06月02日
-
カシミール問題を巡る印パの内情と経済への影響
インドは米国の介入を快く思わないが、経済にとっては都合が良い
2025年05月23日
-
尹大統領の罷免決定、不動産問題が選挙のカギに
賃借人保護の不動産政策を支持する「共に民主党」の李在明氏が、大統領選挙で一歩リードか
2025年04月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日