「タイ・プラス・ワン」を巡る一考察
ラオスを中心とした周辺国の発展戦略
2014年04月22日
サマリー
◆アジアにおいて日本からNIEsへ、さらにマレーシアやタイなどのASEAN先行国、そして中国へと引き継がれてきた「高度成長の連鎖」と同様の展開が、メコン地域で起こり始めているといわれる。「タイ・プラス・ワン」という言葉は、まさに成長の糧がタイから周辺国に拡散するプロセスの表現に他ならない。
◆このような展開の恩恵をラオスも受ける。同国は、水力発電開発、鉱物資源の開発と輸出という成長の牽引役を有する。これに製造業のキャッチアップが加わることで、成長率の加速が見込まれる。そしてタイにおいて労働集約的工程が資本集約的工程に置き換わり、メコン地域全体としての成長が確保されることが期待されている。
◆ただし、ラオスにおける成長加速は、短期疾走型に終わってしまう可能性がある。現状、製造業拠点としての同国の最大の魅力は安価な労働力である。だからこそ、タイにおける一部製造工程の受け皿としての存在感を示すことができる。一方、同国は人口650万人程度の小国である。労働集約財の製造拠点としての競争力を長く維持することは極めて困難とみざるを得ない。
◆従って同国は、期間限定の高度成長の果実を無駄にすることなく、次のステップ、資本・知識集約的な製造業基盤の構築、さらには農業の生産性向上などに邁進する必要がある。何より優先されるべきは、教育改革であろう。日本を含む海外からの支援についても、人材育成を一つの柱とすることが望まれる。
◆このようなラオスのケースは、「タイ・プラス・ワン」というストーリーの妥当性を疑問視する根拠とはならない。ただし、タイ経済の成熟化がもたらす成長拡散の潜在的な地理的範囲が、メコン地域を超えて広くアジアに及ぶ可能性があることに注目したい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
2022年05月24日
人的資本経営の実現に向けた5ステップ
-
2022年05月20日
2022年4月全国消費者物価
携帯電話通信料引き下げの影響が縮小しコアCPIは前年比+2.1%に
-
2022年05月20日
内外経済とマーケットの注目点(2022/5/20)
米国の個人消費は底堅いとみられるが、日米企業の収益環境に要注意
-
2022年05月19日
2022年3月機械受注
大型案件が押し上げも基調は足踏み継続
-
2022年05月24日
ESG投信のウォッシュ問題
よく読まれているリサーチレポート
-
2022年03月22日
日本経済見通し:2022年3月
ウクライナ情勢の緊迫化による日本・主要国経済への影響
-
2022年01月24日
円安は日本経済にとって「プラス」なのか「マイナス」なのか?
プラスの効果をもたらすが、以前に比べ効果は縮小
-
2022年03月23日
ロシアのウクライナ侵攻で一気に不透明感が増した世界経済
-
2022年02月10日
ロシアによるウクライナ侵攻の裏側にあるもの
ゼレンスキー・ウクライナ大統領の誤算
-
2022年03月17日
FOMC 想定通り、0.25%ptの利上げを決定
ドットチャートは2022-24年にかけて、計10.5回分の利上げを予想