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中国社会科学院「人民元レートの一時的調整の利益とリスク」

2017年03月03日

肖立晟

2015年8月11日に人民元の為替制度改革が発表された後、中国の外国為替市場は一時的に大規模な資本流出と大きな下落予想に直面した。2015年8月から12月まで、中国の外貨準備高は、毎月800億ドル近く減少していた。このペースで減少していくと、4兆ドルという巨額の外貨準備高を有していても、徐々に底を突く恐れがある。それを受け、金融市場は外貨準備を使って人民元レートの安定を図る中国人民銀行の能力を疑い始めていた。外貨準備の減少と人民元の下落が悪循環に陥ってしまうのではないかということだ。つまり、外貨準備の減少幅が大きければ大きいほど、人民元相場を安定化させる中央銀行の能力に対する市場の懸念は大きくなり、人民元の下落予想が強まるのである。


2016年の年初、人民銀行は「前日終値+通貨バスケット調整」という新たな人民元対ドルレートの中間値形成メカニズムを打ち出し、人民元対ドルレートの下落を緩やかなペースにコントロールしようとしていた。この新たな為替相場形成メカニズムは、大幅下落の恐れを取り払い、人民元の下落予想の圧力後退につながっていた。人民銀行によれば、「ドルレートの実勢動向には不確定要素があるため、通貨バスケットを参考にすれば、人民元対ドルレートは上下双方向への変動を示すことになり、マーケットの単一方向への予想を打ち破り、投機活動を抑制することができる」という。この新たな為替相場形成メカニズムは、マーケットの透明度と事後検証の可能性を高め、大幅下落の予想を後退させることにもつながっている。


しかし、外貨準備の減少と人民元の下落予想の悪循環は、断ち切られたのではなく、ただ解決が先送りされたのである。2016年の外貨準備の減少幅が3,000億ドルに近づくとともに、オフショア市場の1年物人民元先物は、約4%下落した。人民銀行のこの対応策は、人民元の上昇予想が強かった時の対応策とほぼ同じ発想によるものであり、即ち「時間をもって空間を取り戻す」ということである。具体的には、厳しい資本規制、人民元対ドルレートの中間値と外貨準備のコントロールを通じて、為替市場に介入し、人民元レートの下落ペースを抑えようとしていた。しかしその結果、直物市場ではドル上昇による衝撃を受け止めることができなくなり、人民元レートの下落圧力は、オフショアの先物市場に移転され、下落予想をさらに強めさせることになった。また、人民元の下落予想が米国の利上げの影響と結びつくことで、新たな悪循環を招いてしまう。


人民元の下落を予想する貿易業者と投機家はドル買いを行い、そうした簡単な方法により、外貨準備の減少を傍観しながら、人民元下落がもたらす利益を手に入れることができる。さらに人民銀行が最終的に為替相場の安定化を諦めるならば、より大きな利益を獲得することができるだろう。


人民銀行は、対応策を打ち出しながらも動きを相対的に抑え、ドル上昇サイクルが終わり、人民元下落の圧力が早く解消されることを期待している。市場介入によって、人民元相場は基本的に安定を取り戻し、コントロールできなくなるリスクを避けることに一定の成果を上げたが、その代償として、通貨政策の独立性を失い、資本規制は強化され、しかも最終的に人民元相場を守れるかどうかは未知数である。


この「戦い」で、主導権は一貫して貿易業者と投機家の手に握られている。そのため人民銀行は、為替相場に手足を縛られ優位性を発揮し難いと考えられる。


問題は、人民銀行が人民元レートの一次的な下落後に自由な変動を許容するかどうかにあると考えられる。さらに人民元レートの下落がいかなるコントロールし難いリスクをもたらすかにも関わっていると言えよう。


この問題に答えるには、マクロ的視点、外国為替リスクヘッジ、海外の政治的圧力といった三つの面から考えなければならない。


マクロ的視点から見ると、為替相場の合理的水準は、経済のファンダメンタルズが決定すると考えられる。例えば、人口動態、内外の相対的な生産性、交易条件などの基本的な要素は、最終的に経常収支に反映されることになる。中国の経常収支黒字の対GDP比は、世界金融危機により縮小した後、2010年から安定を回復し、その後2.5%程度で推移している。過去5年間のデータから見ると、中国の経常収支黒字対GDP比の平均値は約2.4%であり、2016年の1-3月から7-9月期にかけての平均値は約2%である。少なくとも経常収支から見ると、人民元相場は、持続的に下落するような状況に陥ることはないと考えられる。


一方、外国為替のリスクヘッジの観点から見ると、人民元相場には大幅な変動が生じる可能があると考えられる。過去6年間、中国の通貨供給量の増加スピードは非常に速く、広義のマネーストック(M2)は平均すると13%の増加率を保ち、残高はすでに20兆ドル超に達している。中国の外国為替市場には「実需原則」が存在するため、一部の資産はリスクヘッジの機能に欠けている。そのため、人民銀行の為替相場安定策に頼り、為替リスクの回避を図るしかないのである。人民銀行がインフレ率の安定を同時に保つことができれば、一般市民の預金の動向が外国為替市場に影響を与える圧力は低下することになるだろう。


しかし、人民銀行が人民元レートを下落させた上で、人民元の自由な変動を許容するのであれば、それはとりもなおさず、一般市民にとってはリスクヘッジの機能を果たさないことになる。となると、一般市民が保有する資産価値に大きな変動が生じ、一部の資金が「実需」に偽装して外国為替市場でリスクヘッジを狙い、結局、人民元レートはコントロール不能なほどに暴落してしまう可能性がある。


したがって、人民銀行が人民元レートの一次的な下落を許し、それを機に変動自由化に移行させた後、人民元レートには、一定期間の乱高下が生じることになるだろう。しかも、その下落は一回限りに止まらず、長期的に見れば、段階的に人民元は下落していくだろう。しかし、ドルのロングポジションに集中され過ぎると、一部の「賢明な投資家」はむしろ人民元買いを試みるに違いない。その場合、人民元レートは必ず回復するはずだ。その時になれば、人民元レートは本当の意味で上下双方向に変動するようになり、人民銀行も多面的に為替市場の構築に取り組み、多様化する為替市場の金融商品を提供することになるだろう。


最後に、海外の政治的圧力から見ると、中国は世界最大の貿易国であり、人民元が大幅に下落することになれば、必ず世界に激震をもたらし、世界的論争を巻き起こすに違いない。とは言っても、今回の下落には「まともな原因」がきちんとある。為替制度改革は為替市場の自由化の方向に沿って、国際収支の為替レートによる自動調節機能を十分に活かすために行われたものである。米国財務省とIMFが人民元下落に不満を抱いたとしても、非難のしようもない。一方、トランプ次期大統領は(訳者注:当コラムの公表日は2017年1月17日)、中国を為替操作国と見なすと表明したが、もし、人民銀行が為替市場に頻繁に介入しなくなれば、為替操作という言い方は成立しなくなる。したがってトランプ政権発足前の今、為替市場に対する介入をやめ、人民元相場を自由に変動させるかどうかが重要なポイントだと言えよう。


マクロ的視点と海外の政治的圧力から分析してみると、人民元レートの変動は、中国の国内市場にコントロールが困難なほどの衝撃を与えることはないと考えられる。最大のリスクは国内の市場参加者の為替リスクヘッジのための行動である。実際のところ、これはドルに連動しないすべての通貨が払うべき代償であり、通貨をコントロールできなくなる要因でもある。ドルと連動しない他国の通貨とは異なり、人民銀行は直ちに人民元とドルとの連動をやめるのではなく、そのペースをすでに一年間以上にわたり維持している。つまるところ、為替リスクヘッジの機能を強化させるべく、中国の企業と個人は一年間以上の準備期間を与えられていることになる。それに、中国では厳しい資本規制があるため、為替相場の変動をある程度抑えることができる。


しかし、どの時点で為替相場の変動自由化を実施することがリスクを最も小さくするかについては、まだ結論が出ていないのである。にもかかわらず、2005年に為替制度改革が実施されて以来、人民元は対ドルで2013年までずっと上昇しており、有効な金融派生商品の市場を立ち上げるのは難しい状況にあった。本来なら、対ドルで人民元には、上昇と下落の二つの可能性がある。それは、為替市場が健全に成長する基礎である。人民元とドルの為替相場に、もし一方向への予想が持続的に存在すれば、それを基に派生商品はさらにその単一方向への予想を強めさせ、人民元レートの下落あるいは上昇予想をさらに増幅させる恐れがある。しかし、人民元レートの変動自由化を解禁しなければ、外国為替市場を発展させることもできなくなり、一般市民の為替リスクヘッジのニーズを満たすことはできない。為替相場の柔軟性は為替市場発展の基礎である。外貨準備がなくなり、コントロールできないような状況に晒されてから為替相場の変動を自由化するより、むしろ3兆ドルの外貨準備を持つ今、為替相場を自由化すれば、挽回の余地がまだある。


総じていえば、この外貨準備消耗戦では、保有する外貨準備をできるだけ維持し、為替レートを自由に変動させるべきである。このようなやり方は確かにリスクを伴うが、最善の選択である。人民銀行には、2015年の「811為替制度改革」の方針に沿った、しっかりした対応策を基礎にした為替制度改革の早期完成を目指してほしい。

(2017年1月発表)


※掲載レポートは中国語原本レポートの和訳です。

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