サマリー
◆3年にわたる厳格な「ゼロコロナ」政策が終わり、「ウィズコロナ」政策に転換した2023年に入っても中国経済の回復力は弱い。その主因は、①「国進民退」(政策の恩恵が国有企業に集中し、民営企業が蚊帳の外に置かれる)によって、民営企業の経済活動が停滞していること、②2022年からの不動産不況が続いていること、である。景気の本格的な回復には、民営企業に対する強力なテコ入れと、不動産市場の安定化・不動産不況からの脱却が不可欠である。
◆民営企業へのテコ入れは本格化しつつある。例えば、党中央と国務院は2023年7月14日付けで「民営経済の壮大な発展を促進することに関する意見」(以下、「意見」)を発表した。「意見」では、民営経済を「より大きく、より優秀に、より強く」するとした。これは従来、国有経済にしか使われなかった表現であり、当局の本気度は高いと推察される。国家発展改革委員会は、民営企業に関するリストを作成し、それを銀行に送付して、銀行貸出の増加をサポートするなどとしている。
◆一方で、住宅市場の安定化や不動産不況からの脱却は難度が高そうだ。中国では、1軒目を実需と見なす一方、2軒目以降の住宅購入については、頭金の割合や住宅ローン金利を引き上げるなどして、投資・投機的な需要を抑制している。これまでの政策では、住宅ローンの記録によって、2軒目以降の認定が行われていたが、今後はこの記録は適用されず、自分名義の住宅が1軒もなければ、1軒目の頭金や住宅ローン金利が適用されることになる。これは住み替え需要を刺激する可能性が高いが、それ以上に住宅市場の供給が増えることになろう。例えば、この政策を享受するには、住宅所有を一旦ゼロにする必要があり、2軒所有している者は、2軒とも売却して新たに1軒を購入することになる。現地では、住宅の流動性が高まるとのポジティブな評価が多いが、その実、価格下落が加速するリスクを内包している。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国経済見通し:内需不振で強まる減速傾向
2026年は自動車販売台数も急減速(あるいは減少)か
2025年09月24日
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日