サマリー
中国の株価が急落した。7月5日の上海総合株価指数は昨年末比17.3%安の2,733.9㌽で引けた。足元は若干値を戻しているものの地合いは弱い。米長期金利急上昇が調整のきっかけとなったが、その後は米中貿易摩擦問題が株式市場を揺さぶっている。
中国国内では企業のデレバレッジ(負債率引き下げ)が強化され、銀行貸出以外のいわゆるシャドーバンキングによる資金調達が抑制された。4月以降は企業債のデフォルトが相次ぐなど、行きすぎた金融引き締めへの警戒感が台頭している。社会資金調達金額のネットの増減額は、広義のシャドーバンキング(委託貸出、信託貸出、未割引の銀行引受手形、企業債券発行額、非金融企業の域内株式発行額の合計)が、5月は▲4,211億元、6月は▲5,359億元と大幅な純減(回収・償還超過)となるなど、シャドーバンキング経由の資金調達が極端に抑制されたことが示されている。理財商品など資産運用商品の一部は株式市場で運用されており、資産運用商品の残高減少により株式市場への資金流入も細っている。
6月中旬以降の急速な元安も気がかりである。6月末の人民元の対米ドル基準レートは1ドル=6.6166元と月間3.2%の元安となり、7月24日時点では6.7891元とさらに2.6%の元安が進んだ。市場では米中の高関税報復合戦を意識した「輸出テコ入れのための元安誘導」との見方が多いが、急速な元安は資本流出の加速を招きかねないもろ刃の剣である。
株価急落と元安で惹起されるのは、周小川・前人民銀行総裁時代の2015年8月と2016年1月に発生した「人民元ショック(チャイナ・ショック)」である。
周小川氏は、(表面的とはいえ)金利の自由化や人民元の国際化を推進し、「ミスター人民元」と称されたが、マーケットとの対話は得意ではなかった。2015年8月11日に人民銀行が人民元を切り下げたのは、IMF(国際通貨基金)が人民元をSDR(特別引出権)に採用するにあたり、当局が発表する基準レートと市場が若干乖離しているのを問題視していたのを修正することが目的であった。ところが当時、これが丁寧に説明されなかったために、「人民元切り下げで輸出振興をしなければならないほど、中国の景気は悪い」、「今後、ASEANを巻き込んだ通貨切り下げ競争が始まる」などといった様々な疑心暗鬼を生じさせた。人民元には売り圧力がかかる一方で、金融当局はこれに人民元の買い介入で対抗し、1ヵ月で1,000億ドル前後の外貨準備が失われた。スパイラル的な元安への懸念から中国株が急落するなど、「人民元ショック」と呼ばれる大混乱が生じたのである。
易綱氏は、2018年3月の人民銀行総裁就任早々、「人民元ショック」の再演回避という試練に直面している。易綱総裁に求められるのは、マーケットに対して金融・為替政策を分かりやすく丁寧にタイムリーに説明することで、マーケットに余計な疑心暗鬼を生じさせないことである。少なくとも巨額の外貨準備を費消して元を買い支えるのは得策ではない。2018年6月の外貨準備は3兆1,121億米ドルと、前月比で15億ドル増加し、マーケットには安堵感が広がった。それでも愁眉を開くにはまだ早い。当面は、外貨準備増減への注目度をより高めておく必要があろう。
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