サマリー
◆非政府・非金融部門の債務残高の対GDP比が高まり、住宅価格が上昇しているという点では、近年の中国の状況は、不動産バブル崩壊前の日本の状況と類似している。しかし、当時の日本に比べて、家計部門の債務残高の占める比率が低く、1人当たりの名目GDPの増加率が高いことから、短期的な将来に中国で、債務の返済ができなくなるケースが増加することにより不良債権が増加して金融危機が起こる可能性は、日本の経験を単純にあてはめて推測されるようには高くないとみられる。
◆リーマン・ショック後の中国においては、住宅在庫率が高まっても住宅価格が上昇し続けており、価格の需給調整機能が、通常の形では働いていない。これは、中国政府が内需主導の経済成長を目指すようになった結果、住宅在庫率が高まっても、住宅販売価格は将来も下落しないという期待が強まったためとみられる。
◆2016年以降住宅在庫率が低下に転じたのは、住宅需要喚起策がとられたことによるところが大きい。今後、マクロ経済政策の引き締めが行われた場合でも住宅在庫率の適正化が続くためには、住宅着工が抑制される必要がある。今後、住宅価格が下落することなく、政策による誘導や規制によって十分に住宅着工が抑制されるか否かが注目される。住宅価格が下落する場合には、不動産開発企業の経営悪化のリスクが生じる。十分に住宅着工が抑制されないまま、再び住宅需要喚起策がとられる場合には、住宅を購入できない国民が増加したり、人件費といったコスト増要因となって産業の競争力を低下させたり、より長期的に、より対応困難なリスクが増大する。
◆近年住宅販売が大幅に減少した遼寧省でも、住宅価格はおおむね上昇し続けており、住宅着工が著しく減少しているものの、住宅在庫率は顕著に上昇している。遼寧省のように鉄鋼業等の過剰生産能力の削減が行われている省では、住宅需要喚起策によって住宅販売を継続的に増加させることが難しいと考えられ、価格の需給調整機能によることなく、政策による誘導や規制によって住宅在庫率を十分削減することができるのか否かが、特に注目される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国経済:2025年の回顧と2026年の見通し
不動産不況の継続と消費財購入補助金政策の反動で景気減速へ
2025年12月23日
-
中国:来年も消費拡大を最優先だが前途多難
さらに強化した積極的な財政政策・適度に緩和的な金融政策を継続
2025年12月12日
-
中国:四中全会、関税、そして日中関係悪化
米関税下げで2026年の経済見通しを上方修正、ただし内需は厳しい
2025年11月25日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
-
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
-
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日
日本経済見通し:2025年10月
高市・自維連立政権の下で経済成長は加速するか
2025年10月22日
非財務情報と企業価値の連関をいかに示すか
定量分析の事例調査で明らかになった課題と今後の期待
2025年11月20日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第227回日本経済予測
高市新政権が掲げる「強い経済」、実現の鍵は?①実質賃金引き上げ、②給付付き税額控除の在り方、を検証
2025年11月21日
グラス・ルイスの議決権行使助言が大変化
標準的な助言基準を廃し、顧客ごとのカスタマイズを徹底
2025年10月31日

