サマリー
◆豚肉の消費者物価構成ウエイトは2.3%程度であるが、侮ってはいけない。豚肉は価格変動が極めて大きく、物価全体への影響は軽視できない。2016年5月の豚肉価格は前年同月比33.6%上昇し、同2.0%の上昇となった消費者物価を0.8%ポイント押し上げている。
◆豚肉と飼料の価格比は6(豚肉):1(飼料)が養豚業者の損益分岐点であり、これを上回るほど利益が増加し、下回るほど赤字が増加するとされる。2014年1月から2015年5月には価格比が6を下回り、養豚業者は赤字経営を余儀なくされ、規模を縮小したり、養豚をやめる業者が増加した。2013年に5,000万頭前後だった繁殖用母豚の飼育頭数は、2014年に入ると減少し、2016年5月には3,762万頭となった。繁殖用母豚の補充から交配・出産・肥育には12ヵ月程度が必要とされ、少なくとも今後1年は豚肉の供給増加は期待し難い。
◆豚肉価格上昇を背景に、価格比は2015年6月に6を回復し、2016年5月には11へ上昇した。通常であれば、もっと早い段階で繁殖用母豚の飼育頭数が増加してもよいのだが、今回は減少が長期化している。これには、環境保護を重視する習近平政権が、2014年以降、重要な水源地とその周辺での養豚を禁止したほか、業者に対して糞の処理設備の設置を求めたことで、零細業者を中心に廃業が相次いだことが影響しているとの指摘がある。
◆豚肉価格高騰による消費者物価上昇は、実質消費の下押し要因となる。豚肉価格上昇は少なくとも今後12ヵ月程度は続く可能性が高いが、上昇率はそろそろピークを迎えてもおかしくはない。繁殖用母豚の飼育頭数(前年同月比)を12ヵ月先行させたものと豚肉価格(同)は反比例し、前者の減少率は2015年前半(12ヵ月先行で2016年前半)が最大であり、その後、減少率は縮小している。豚肉価格上昇率がピークアウトしていけば、物価上昇圧力が低減し、実質消費には追い風となろう。
◆最後にもう一つ指摘したいのは、環境保護は政策として極めて重要であるが、それを遂行するに当たっては周到な準備や細やかな配慮が必要であるということだ。例えば、環境保護政策によって零細業者の豚肉生産量減少が想定されるのであれば、養豚の大規模経営を推進するなどの対策を講じておくべきであったであろう。政策対応が後手に回ると負の影響はより大きくなってしまうのである。
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