サマリー
◆第13次5ヵ年計画で新たに採用された目標からは、中国が今後5年間でイノベーションと環境改善に注力する姿勢が明確に表れている。
◆労働コストの急上昇や、長期にわたった持続的元高などにより、中国の労働集約的な産業・製品の価格競争力は大きく低下した。一帯一路(海と陸のシルクロード)構想には、競争力を失った同産業の海外移転を促進する側面がある。自国に残った産業をアップグレードしなければ、空洞化は避けられず、成長率が急低下するリスクが高まる。これが、中国がイノベーションを重視せざるを得ない、切実な背景である。
◆イノベーションが掛け声倒れに終わるのではないか、との懸念はもっともである。研究開発(R&D)投資の対GDP比率は、第10次5ヵ年計画(2001年~2005年)から未達成が続いている。中国企業がR&D投資をコストとしてしか見做さず、投資に消極的であったことが要因の一つである。2016年からは企業のR&D投資・費用の税前加算控除というインセンティブが始まる。これが、企業のR&D投資意欲に変化を与えるのか、今後の動向に注目したい。
◆環境改善では、大気汚染と水質の改善が目標として新たに加えられた。人々の健康や食の安全等の観点からは、目標設定は当たり前であり、むしろ遅すぎたくらいである。以前からの継続目標については、単位GDP当たりCO2排出量、COD(化学的酸素要求量)、SO2(二酸化硫黄)、NOx(窒素酸化物)の排出量削減などで、第12次5ヵ年計画の目標と比べてさらに一段高いハードルが設定された。
◆目標達成には、エネルギー効率が低く汚染物質排出量の多い旧式の生産能力の削減や、イノベーションを牽引役とする産業構造の高度化にしっかりと取り組むしか道はない。経済成長の長期的ダウントレンドが続くと見られるなかで、資源・エネルギー消費量や汚染物質排出量が相対的に少ない第三次産業のウエイトが拡大していくことは、省エネ・省資源と汚染物質排出削減には追い風となる。中国はこの好機を逃してはならない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:内巻(破滅的競争)と上乗せ関税の行方
追加関税大幅引き下げでも製造業PMIは50割れが続く
2025年06月24日
-
中国:関税引き下げを受け、見通しを上方修正
25年は3.9%→4.8%、26年は4.0%→4.2%に上方修正
2025年05月23日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日