サマリー
中国の鋼材輸出量が急増している。中国通関統計によると、2014年は前年比50.4%増の9,379万トン、2015年は同19.9%増の1億1,240万トンと日本の鉄鋼生産量を超えるほどの量となった。
一方で、国家統計局によれば2013年に同11.5%増を記録した中国の粗鋼生産は、2014年は同0.9%増の8億2,270万トン、2015年は同2.3%減の8億383万トンと、頭打ちから減少に転じた。国内生産低迷と輸出急増が示唆するのは、国内需要の落ち込みである。
中国の実質GDP成長率は2010年の前年比10.6%をピークに5年にわたる低下傾向が続き、2015年は同6.9%にとどまった。特に、2015年は不動産開発投資の急減速や過剰生産設備を抱える重工業分野の新規投資の落ち込みなどが国内鉄鋼需要の低迷をもたらした。こうしたなかである程度の設備稼働率を維持するために、中国は輸出ドライブをかけているのである。
中国の鋼材輸出金額は、2014年の同33.0%増の708.4億米ドルから2015年は同11.3%減の628.3億米ドルへ減少した。単価は同26.0%の下落である。鉄鉱石価格の下落もあり、マージンが確保できていれば良いのだが、2015年1月~11月の鉄鋼企業の税前利益は同68.0%減益と全くの不振である。中国のマージンを犠牲にした輸出攻勢により、世界の鉄鋼価格は大きく下落し、日本をはじめ世界の鉄鋼メーカーの収益に逆風が吹いている。供給過剰に起因する鉄鋼価格の値崩れにより、原料の鉄鉱石価格も下落しており、原料を供給する資源国の景気にも大きなマイナスの影響を与えている。
何故こんなことが起きるのか?問題の根本は、鉄鋼の供給能力過剰問題である。リーマン・ショック後の世界的景気低迷への対応策として2008年11月に発動された4兆元の景気刺激策によって、中国の粗鋼生産能力は2008年の6.4億トンから2013年には11億トン超へと急速に拡張された。中国政府は毎年、鉄鋼の設備淘汰目標を掲げ、それが達成できたと胸を張る。しかし、それは多くの場合、単なる一時休止にすぎない。全国レベルで見れば淘汰対象となる旧式設備(工場)であっても、その地方にしてみれば雇用面等で重要な意味を持つ。旧式設備のスクラップ化による供給過剰の解消は「言うは易し行うは難し」の典型となっている。
昨年12月9日に開催された国務院常務会議では、国家のエネルギー消費・環境保護・品質・安全基準を満たさないか、3年以上赤字が続く生産能力過剰業種の企業(いわゆるゾンビ企業)について、M&A・財産権譲渡・転業・閉鎖破産などの方法によって処分し、2017年末までに企業の赤字額の著しい減少を目指すとした。それでは今後、企業の優勝劣敗や過剰生産能力の削減は大胆に進められるのであろうか?答えは「否」である。既に政府当局者は「救済合併」を中心とし、雇用の悪化を引き起こす可能性のある閉鎖破産はできるだけ採用しない最後の手段である旨を明言している。
習近平政権は、経済政策運営上安定した雇用を最も重視し、そして人々の生活が前の年よりも良くなっていると実感できれば、同政権への支持が続くと認識している。供給過剰問題に大胆にメスを入れることが困難なのは、「安定した雇用=共産党政権への支持」を損なう可能性があるためである。ここに中国が抱える大きなジレンマのひとつが浮かび上がる。鉄鋼のたたき売りはまだ続きそうだ。

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