サマリー
習近平政権は高成長から中高成長へ移行した中国経済の姿をニューノーマル「新たな常態」と表現している。他方、中国経済が想定以上に減速する可能性を、世界経済にとってのリスク要因として位置づける見方は今年も多い。
昨年の実質成長率7.4%は24年ぶりの低成長であったが、景気減速に悩む新興国の中では依然として高い数字である。しかし、本当に7%台の持続的な成長が可能なのか、内需の低迷は深刻ではないかと懸念させる材料は多い。
代表例は粗鋼生産量である。世界鉄鋼協会(World Steel Association)によれば、2014年の中国の粗鋼生産量は約8億2千万トン、世界シェアは約50%と、圧倒的な存在感を示した。しかし、伸び率は前年からわずか0.9%増に止まり、1981年以来の低さとなった。2013年の11.5%増から急ブレーキがかかり、供給過剰の解消を急ぐ必要に見舞われた格好だ。
これは鉄鋼価格の下落と急激な輸出拡大をもたらした。2014年の粗鋼輸出量は50.4%増の約9千4百万トンと急増した。同年の日本の粗鋼生産量が、約1億1千万トンであったから、中国はそれに近いすさまじい量の鉄鋼を輸出したことになる。中国の内需低迷によってアジア市場で鉄鋼価格は下落。原料の鉄鉱石は過剰となり、原料を供給する資源国の景気にも大きな影響を与えている。
当社では、2015年の中国の実質GDP成長率を7.0%と予想している。その意図するところは、今年の四半期ごとの成長率は7%を上回ることもあれば下回ることもあり得る、仮に中国の成長率が6%台に低下したとしても、もはや驚くにはあたらない、ということである。
中国のニューノーマルが安定成長への軌道修正を果たすのか、供給過剰体質ゆえの不安定性を見せ続けるかは、世界経済の先行きを占う上での重要な論点である。
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