サマリー
◆中国人民銀行と中国銀行業監督管理委員会は2014年9月29日付けで、低迷する住宅市場のテコ入れを目的とした通知を発表した。①居住目的の1軒目の一般住宅を購入する家計が利用する住宅ローンについては、頭金比率を最低30%以上、ローン金利の下限は基準金利の0.7倍とし、具体的な貸出条件は銀行がリスク状況を鑑みて自主的に決定する、②1軒目の住宅を保有し住宅ローンを完済している家計が居住条件の改善を目的に2軒目の一般住宅を購入する際は、1軒目と同様に優遇する、ことなどが柱であり、住宅購入制限なども解除された。
◆恐らく、住宅市場の調整が長期化し、地方政府の主要な収入源と債務返済原資である土地使用権譲渡益収入が減少し、景気が大きく下振れするリスクが高まるのを回避すべきと中央政府が判断したのであろう。
◆今後、住宅需要が金融によってサポートされるか否かの鍵を握るのは、銀行の貸出姿勢である。中国人民銀行は、2014年5月12日に商業銀行に対して、家計の1軒目の一般住宅購入の際の住宅ローン審査を迅速に行い、状況に応じて優遇金利を付与する旨の窓口指導を行った。しかし、これは全く効果を発揮していない。銀行の調達コストが上昇するなか、住宅ローンに優遇金利を付与すれば、預貸スプレッドは一段と縮小するため、銀行は住宅ローンの提供を抑制し、住宅ローン金利を引き上げたのである。
◆銀行が合理的な行動をとり続ければ、今回の住宅市場テコ入れ策の目玉である、基準金利の0.7倍という住宅ローンの最優遇金利は絵に描いた餅に終わる。それでもなお強力な窓口指導(行政命令)により優遇金利での貸出を強いれば、銀行のマージンは一段と低下する。後者の場合は、中国の金融は政府の関与がきわめて大きく、「市場化」や「自由化」には相当な困難が想定されることが改めて認識されるであろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:関税引き下げを受け、見通しを上方修正
25年は3.9%→4.8%、26年は4.0%→4.2%に上方修正
2025年05月23日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
-
中国:トランプ関税2.0で25年は3.9%成長へ
迂回輸出は当面温存。「トランプ関税2.0」の長期化は想定せず
2025年04月23日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
-
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
-
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
-
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日
「相互関税」による日本の実質GDPへの影響は最大で▲1.8%
日本に対する相互関税率は24%と想定外に高い水準
2025年04月03日
「相互関税」を受け、日米欧中の経済見通しを下方修正
2025年の実質GDP成長率見通しを0.4~0.6%pt引き下げ
2025年04月04日
米国による25%の自動車関税引き上げが日本経済に与える影響
日本の実質GDPを0.36%押し下げる可能性
2025年03月27日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
日本経済見通し:2025年3月
トランプ関税で不確実性高まる中、25年の春闘賃上げ率は前年超えへ
2025年03月24日