サマリー
急膨張する地方政府債務問題への対応として、中国は抜本的な処理ではなく、低利債券への借り換えによる金利負担軽減と返済期限の長期化・分散化によって問題を先送りすることを選択した。2013年末に、国家発展改革委員会は、①地方政府融資平台を中心とした高利債務を中長期の企業債券(城投債=都市投資債券の期間は最長15年)に置き換えるなど、債務再編を強化する、②資金不足に直面するプロジェクトに対して債券発行による債務返済とプロジェクト再開を認可する——ことを発表したのである。
こうした背景を踏まえて2014年1月~5月の社会資金調達金額の内訳を見ると、企業債券増加額は前年同期比12.8%減の1兆325億元にとどまっている。昨年末に打ち出された債務再編は滞っているのだろうか?
答えは否である。地方政府融資平台が発行する城投債は、地方政府の信用力で発行され、2014年1月~5月の発行額は前年同期比66.0%増の7,857億元と大きく増えている。短期高利債務の城投債への借り換えはある程度進展しているはずである。
一方で、証券会社が引き受ける会社債(上場会社が発行する社債)や企業債(民間企業の社債を含む)などは、その会社の信用力で発行されるため、既発債の一部デフォルト懸念が喧伝されるなか、発行額は急減している。これが、企業債券増加額が前年割れとなっている理由である。
政府との関係が強いところほど、このような問題の先送りができてしまうのが中国の強みでもあり、弱みでもある。弱みとは問題の抜本的な処理や改革への切迫感が低下することである。皮肉にもマーケット原理が働くのは民間企業のみとなっているのが現状であろう。
「国進民退」とは、2008年11月に発動された4兆元の景気対策の効果が、政府との関係の深い大型国有企業に集中し、民間中小企業が蚊帳の外に置かれたことを指す。企業債券における「城投債」とその他企業債券の差は、この「国進民退」問題が再び深刻化していることを示唆する。
2013年11月に開催された三中全会は「改革の全面的深化」を謳い、民間中小企業の経済活動を活性化させるとしたが、残念ながら現状は、それと正反対の動きとなっているのではないか?
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国経済見通し:内需不振で強まる減速傾向
2026年は自動車販売台数も急減速(あるいは減少)か
2025年09月24日
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日