サマリー
2013年6月初旬に中国北京市・天津市を訪問する機会を得た。問題意識は、①外資系企業が中国経済・産業の高度化に果たした役割、②外資系企業が抱える課題・問題点、③今後の有望業種、④日中関係悪化を踏まえた日本からの対中直接投資の行方、を探ることであった。
外資系企業のプレゼンスは2004年~2007年がピークである。リーマン・ショックを受けて、主要国・地域の直接投資余力が低下するなか、中国は2008年11月に4兆元(約57兆円)の景気刺激策を発表し、投資主導で景気が急回復した。外資系企業のプレゼンス低下は中国の投資のやりすぎが一因であり、中国の投資効率は大きく低下し、投資に過度に依存した成長の限界が露呈しつつある。しかし、こうした状況だからこそ、中国、特に地方の外資導入熱は全く冷めていない。外資系企業のプレゼンスは、固定資産投資に比べて、輸出や鉱工業生産の方が断然高く、外資系企業の生産性の高さや、投資の質の高さが示唆される。外資系企業への評価は、技術や現代的な経営管理・手法などにも及んでいる。
外資系企業が抱える最大の課題・問題点は、労働コストの上昇である。これによって、労働集約的な産業の競争力が急速に失われる一方で、消費市場としての中国の魅力は増していく。今後の有望業種は、農業、付加価値の高い製造業のほか、金融、物流、医療、文化教育、環境保護、IT・ソフトウエアなど、高品質のサービス産業や生活に密接に関連する分野などが挙げられる。
日系企業には、他の外資系企業と共通の問題点・課題に加え、繰り返される日中関係悪化局面への対応が求められる。ただし、現地ヒアリングでは、日中関係悪化を直接的な要因とする中国からの撤退はほとんどないとの声が圧倒的であった。リスク要因としては、労働コストの上昇や中国の潜在成長率の低下を挙げる向きが多い。日系企業のうち、輸出型から市場型への転換が困難な中小企業の一部では、コスト競争力の喪失から中国からの撤退が現実味を帯びていこう。一方で、大企業は市場型への転換が進展していること、さらには国際分散の観点から中国からの撤退は現実的な選択肢ではない。
中国の潜在成長率が低下するなか、今後は、保守的な前提条件でも黒字化が達成できる綿密な事業計画と投資回収期間の最短化、そして有望業種の見極めが重要になろう。
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