海南省で見た贅沢の大衆化

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2013年04月26日

サマリー

2013年4月上旬、ボアオ・アジア・フォーラムに参加するために中国・海南省を訪れた。中国版ハワイと称され、国家統計局のデータによると、2012年の人口は887万人と小さいが、域内総生産額は2,855億元(約4.4兆円)、一人当たりGDPは32,374元(約50.4万円)と、中国の“平均的な経済水準”を表している島だ。その島の空港が、早朝から中国人観光客でごった返していた。清明節の休暇とぶつかっていたことも背景にあろう。


春節前後を挟んだ2013年1-3月期の国内観光客は前年同期比+14%の10億人、国内観光収入は同+18%の7,630億元だった。中央政府の号令の下、注力された最低賃金の引き上げの結果、中低所得者層の消費意欲が高まっている。春節期間は、近場(中国国内、香港、台湾、タイ、韓国など)への旅行というような、手軽だが贅沢と感じられるレジャーが人気を博した。海南省の混雑具合も、最近の中国の“贅沢の大衆化”の象徴とも言えよう。


ただ、贅沢の大衆化は、ポジティブな影響ばかりでない。農村と都市のモラルのギャップから発生する問題が上海などでは話題だが、それだけでなく、日本ではバブル期まで絶頂だった地方の観光地が、バブル崩壊だけでなく、贅沢・レジャーの多様化によって衰退し、地域再生に時間を要した事例をよく考えなければならないだろう。


第2次産業では労働集約型産業を高付加価値産業へと転換するために“技術”というキーワードを挙げてきた。第3次産業に関しては、顧客それぞれに違う“心の豊かさ”の追求と、地域経済の特性をマッチングさせ、共存を前提に事業自体に持続可能な成長を要求しなければならない。共産主義の名残で“サービス精神の神髄”がまだまだ浸透していない中国では、技術の向上以上に、ソフト面の向上は難しい挑戦になるだろう。


ちなみに、海南省は温泉地でも有名だが、2013年4月6日、東洋・西洋医療を融合させた国際的な医療産業の特区として開発し、中国初の医療保養地にしていく計画が発表された。投資額は数百億元から1,000億元と見込まれ、特徴は先進的な医療サービスを一般的な価格で提供することである。この計画が中低所得者層の贅沢のニーズにマッチするのか。今後の展開を見守りたい。

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