サマリー
2013年4月上旬、ボアオ・アジア・フォーラムに参加するために中国・海南省を訪れた。中国版ハワイと称され、国家統計局のデータによると、2012年の人口は887万人と小さいが、域内総生産額は2,855億元(約4.4兆円)、一人当たりGDPは32,374元(約50.4万円)と、中国の“平均的な経済水準”を表している島だ。その島の空港が、早朝から中国人観光客でごった返していた。清明節の休暇とぶつかっていたことも背景にあろう。
春節前後を挟んだ2013年1-3月期の国内観光客は前年同期比+14%の10億人、国内観光収入は同+18%の7,630億元だった。中央政府の号令の下、注力された最低賃金の引き上げの結果、中低所得者層の消費意欲が高まっている。春節期間は、近場(中国国内、香港、台湾、タイ、韓国など)への旅行というような、手軽だが贅沢と感じられるレジャーが人気を博した。海南省の混雑具合も、最近の中国の“贅沢の大衆化”の象徴とも言えよう。
ただ、贅沢の大衆化は、ポジティブな影響ばかりでない。農村と都市のモラルのギャップから発生する問題が上海などでは話題だが、それだけでなく、日本ではバブル期まで絶頂だった地方の観光地が、バブル崩壊だけでなく、贅沢・レジャーの多様化によって衰退し、地域再生に時間を要した事例をよく考えなければならないだろう。
第2次産業では労働集約型産業を高付加価値産業へと転換するために“技術”というキーワードを挙げてきた。第3次産業に関しては、顧客それぞれに違う“心の豊かさ”の追求と、地域経済の特性をマッチングさせ、共存を前提に事業自体に持続可能な成長を要求しなければならない。共産主義の名残で“サービス精神の神髄”がまだまだ浸透していない中国では、技術の向上以上に、ソフト面の向上は難しい挑戦になるだろう。
ちなみに、海南省は温泉地でも有名だが、2013年4月6日、東洋・西洋医療を融合させた国際的な医療産業の特区として開発し、中国初の医療保養地にしていく計画が発表された。投資額は数百億元から1,000億元と見込まれ、特徴は先進的な医療サービスを一般的な価格で提供することである。この計画が中低所得者層の贅沢のニーズにマッチするのか。今後の展開を見守りたい。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
中国:力不足、あるいは迷走する政策と景気減速
依然不透明なトランプ関税2.0の行方
2025年08月22日
-
中国:年後半減速も2025年は5%前後を達成へ
不動産不況、需要先食い、トランプ関税2.0の行方
2025年07月22日
-
中国:内巻(破滅的競争)と上乗せ関税の行方
追加関税大幅引き下げでも製造業PMIは50割れが続く
2025年06月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日