なぜ日本車販売が6割減で済んだのか

今月の視点

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2012年12月20日

サマリー

日中関係悪化の影響を最も深く、かつ長期的に受けるのが自動車である。日本車が破壊される映像は繰り返し流れ、日本製品の不買運動の象徴とされた。10月の中国現地生産の日本車販売は、前年同月比59.4%減となった。しかし、筆者はむしろ、4割の水準とはいえ、消費者が引き続き日本車を購入したことに光を見出している。11月については、前年同月比36.1%減と早くもマイナス幅が縮小した。


この背景には、当然のことながら日本車に対する評価の高さがあろう。日本車に限らず現地生産を含む日本製品への顧客忠誠度(買い替えの際に、現在使っているメーカーの製品をまた購入したいとする人の割合)は高い。


さらに、地方政府にとって進出企業は極めて大切な存在である。例えば、広東省広州市には、日産、トヨタ、ホンダが進出。3社の従業員数は約2.6万人と広州市都市部従業員239万人の1.1%程度であるが、納税企業としてはそれぞれ広東省で4位、6位、9位にランキングされる。3社の納税額は2011年で220億元(約2,750億円)と、広州市の税収入の6.5%を占める計算である。


そして、地元の人々からの愛着である。筆者の2003年~2010年の北京駐在では、韓国の現代自動車が北京で現地生産したタクシーに乗る機会が多かった。乗り心地や内装の良さを褒めると、必ず返ってきた返事は「北京」の車だからというものであった。北京市民の意識は、韓国の車ではなく、「北京」の車なのである。恐らく、日本の自動車メーカーの進出先でも同様の愛着があろう。


2012年11月14日の党規約改正では、「エコ文明建設」が中国の特色ある社会主義事業の支柱の一つに加えられ、国内の徹底的な省エネ・省資源とクリーンエネルギーの開発強化、環境保護への取り組みが、ますます重視される。2012年1月に国務院(内閣)が発表した「工業高度化5ヵ年計画」では、走行100㎞当たりのガソリン使用量が5.9L以下の自動車を省エネカーとして、普及を強化するとしている。


顧客忠誠度の高さ、地方政府にとっての重要度、地元の愛着、政策的な後押し、そして現地進出企業の逆境を跳ね返す努力が、問への答えであり、回復への道のりの原動力となろう。

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