サマリー
台湾の12年4-6月期のGDP成長率が前年同期比でマイナスとなった。台湾調査会社ウィッツビューの予想では、12年の液晶TVの受注生産出荷台数が前年比で初のマイナス見通しとなるなど、世界的な需要減に加え、中国・韓国メーカーの勢力拡大が台湾経済の根幹を担うハイテク産業を苦しめている。台湾系銀行の融資態度でも、例えば鉄鋼最大手のベトナム投資を支援するなど、風当たりが強いハイテクを避ける傾向がみられる。一方、中国本土では、労働集約型産業のASEANへの流出が相次いでいる。中国の中小企業の走去出(海外進出)のケースもあるが、顕著なのは人件費等コスト増を理由とした外資系製造業の工場移転である。
このように、中台は競争力の低下に直面している。産業構造の転換を急ぐべきとの論調が強いが、まず打開策として注目されるべきは、中国の流通業改革なのではないか。中国の場合、港湾・空港等の整備で物流拠点の整備を続けているが、それでも、電子管理や物流網の共有化、規格統一等の効率化が進んでいない。物流コストは圧縮されず、先進国と比較して2倍以上と言われている。改革が前進すれば、物流コストの圧縮だけでなく、需給バランスの安定化も図れ、物価の変動幅の縮小にも繋がる。12年8月7日には『国務院の流通体制改革の深化・流通産業の発展強化に関する意見』が発表され、流通業に対して、土地の利用率の向上を目指した減税や、高速道路などの通行料の無料化が提起された。早期の実施が望まれる。
ここで改革を主導するのは中台間で締結されたECFA(両岸経済協力枠組協議)ではないか。ECFAによって、台湾勢のサービス業への参入障壁の緩和・参入解禁が進んでいる。そもそも、台湾の流通業はいち早く日本式を取り入れるなどで、小規模な流通業者が多い中、効率化を図ってきた。また、6月27日時点で10行の台湾系銀行がECFAを利用して本土に支店設立の許可を取得、既に8行が業務をスタートさせている。台湾から流通業のノウハウを吸収し、中国の民間流通業が自身の発展を積極化させれば、コスト圧縮による世界的な競争力の挽回と同時に、中国は“産業構造転換の前進”“民間主導の投資”“インフラ整備”“物価抑制”、台湾は“ハイテク以外での競争力向上”と多岐に亘る分野の改革を刺激できるかもしれない。
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