2023年10月19日
サマリー
◆2023年度上半期の自社株買い実施企業数と金額は、前年同期をやや下回った。3月末時点で東京証券取引所(東証)のプライムまたスタンダード市場に上場する企業を対象に集計したところ、自社株買いを行った企業数は548社(前年同期比▲11社)、金額は4兆271億円(同▲6,139億円)となった。企業数は高水準が継続するも、5半期連続で増加していた金額は増勢ペースが一旦止まった。
◆一方、株式市場では、自社株買い実施企業は相対的に高く評価されている。当該企業を対象に3月末から9月末までの株価上昇率を計測したところ、自社株買いを行った企業544社の株価上昇率(中央値)は13.3%と、未実施の企業2,612社の7.3%よりも高い。とりわけ、PBRが低い企業の株価パフォーマンスが良好であった。3月末時点のPBRが0.6倍以下で自社株買いを行った企業(132社)の株価上昇率が21.6%だったのに対し、PBRが1.0倍超で自社株買いを行わなかった企業(1,165社)は2.8%に留まっている。
◆3月末に東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を発表したことで、自社株買いを「一時的な対応」と市場参加者等にみなされないよう上場企業が慎重になったのとは対照的に、市場参加者は低PBRで自社株買いを行う企業の対応を高く評価したといえる。
◆上半期の自社株買いと株価上昇率の傾向等を見ると、既に「PBR1倍割れ企業に対する変化の期待」が織り込まれていると考えられる。今後は、「上場企業が期待に対してどのように応えるか」といった「実践」や「進捗」へと、市場参加者の関心が移るだろう。過去10年間で見れば、新たに株主還元比率を明示する企業や比率を上方改定する企業が増えてきている。株主還元の強化は株価上昇につながりやすいが、株主還元の原資の持続性、利益成長の確度で企業の評価が分かれていくと予想される。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
意見分かれるグロース市場の上場維持基準見直し案
2025年9月に制度要綱が公表予定
2025年07月28日
-
2025年上半期の配当方針等の変更と株価
減益予想が増えるも、累進配当やDOE採用による増配効果が下支え
2025年07月03日
-
CGコードの見直しで会社の現預金保有に焦点
現預金の必要以上の積み増しについて検証・説明責任の明確化を検討
2025年06月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日