2021年06月30日
サマリー
◆日本銀行(日銀)の2020年度(令和2年度)決算は黒字であったが、将来のバランスシート縮小や利上げといった金融政策の正常化の際に赤字となる可能性がある。中央銀行の財務悪化で起き得る最大の問題は、自国通貨の信認が低下する可能性と、納税者負担の増大である。たとえ通貨の信認が維持されたとしても、中央銀行が債務超過になると、国庫納付金の減少や政府による資本注入などを通じて国民負担になる。
◆本稿では、株式・ETF・J-REIT等に評価損が発生し、収益を圧迫する可能性がある点に着目し、損失に対する備えについて議論を行う。
◆株式・ETF・J-REIT等に対しては、含み損が発生した後に引当金を積む。評価損発生・分配金減少となった場合、そのほかの収益で相殺できなければ、経常損失となると考えられる。ETFの時価を試算してみると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により株価が急落した2020年3月16日には約3兆円の評価損が発生していたと考えられる。2020年3月末の決算日にはぎりぎり時価が簿価を上回っていたが、わずかにタイミングが違えば評価損を計上し、赤字となっていた可能性が高い。
◆2013年度末から毎年度末のETFの分配金の50%を価格変化に対する引当金として積み立てていたと仮定すると、2020年度末時点での引当金残高は1.2兆円となり、ショックを緩和できる。
◆日銀の自己資本比率は、総資産対比で見ると1995年度以降低下傾向にある。会計上の自己資本比率は銀行券発行残高対比で算出されるが、日銀のバランスシートに占める銀行券の割合が低下しているため、妥当性が低くなっている可能性がある。
◆バランスシートが拡大し、抱えるリスクが増大しているにもかかわらず、引当金制度や自己資本比率の水準に変化がないのは、備えが不十分であることを意味しているように思われる。引当金制度や自己資本比率について再考する必要があるのではないか。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
「少額投資の在り方に関する勉強会」報告書
東証は上場会社、投資家向けの情報発信などを強化
2025年04月28日
-
IR体制の整備の義務化
パブリック・コメントの開始/7月を目途に実施予定
2025年04月23日
-
個人株主の議決権行使比率は高められるか
「飛び道具」は無いため、株主負担の地道な引き下げが重要
2025年03月26日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日