ETFの損失への備えが不十分な日銀の引当

2020年度日銀決算にみる日銀の出口に向けた論点

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サマリー

◆日本銀行(日銀)の2020年度(令和2年度)決算は黒字であったが、将来のバランスシート縮小や利上げといった金融政策の正常化の際に赤字となる可能性がある。中央銀行の財務悪化で起き得る最大の問題は、自国通貨の信認が低下する可能性と、納税者負担の増大である。たとえ通貨の信認が維持されたとしても、中央銀行が債務超過になると、国庫納付金の減少や政府による資本注入などを通じて国民負担になる。

◆本稿では、株式・ETF・J-REIT等に評価損が発生し、収益を圧迫する可能性がある点に着目し、損失に対する備えについて議論を行う。

◆株式・ETF・J-REIT等に対しては、含み損が発生した後に引当金を積む。評価損発生・分配金減少となった場合、そのほかの収益で相殺できなければ、経常損失となると考えられる。ETFの時価を試算してみると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により株価が急落した2020年3月16日には約3兆円の評価損が発生していたと考えられる。2020年3月末の決算日にはぎりぎり時価が簿価を上回っていたが、わずかにタイミングが違えば評価損を計上し、赤字となっていた可能性が高い。

◆2013年度末から毎年度末のETFの分配金の50%を価格変化に対する引当金として積み立てていたと仮定すると、2020年度末時点での引当金残高は1.2兆円となり、ショックを緩和できる。

◆日銀の自己資本比率は、総資産対比で見ると1995年度以降低下傾向にある。会計上の自己資本比率は銀行券発行残高対比で算出されるが、日銀のバランスシートに占める銀行券の割合が低下しているため、妥当性が低くなっている可能性がある。

◆バランスシートが拡大し、抱えるリスクが増大しているにもかかわらず、引当金制度や自己資本比率の水準に変化がないのは、備えが不十分であることを意味しているように思われる。引当金制度や自己資本比率について再考する必要があるのではないか。

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